行政法「作用法の全体像」
ここは、行政法「作用法の全体像」を講義している教室です。ここから先は、当分の間、行政作用法について勉強します。
今回は、行政作用法の全体像について、お話をしていきます。
1.行政の活動
行政とは、前回お話しましたように、国王の持つ国家権力から、立法権、司法権が取り除かれた、残りの部分でした。
ということは、行政は、権力を使って活動することもある、と言えますね。
例えば、駐車禁止の場所に車を止めると、無理やりレッカー移動されたり、世間では罰金と言われている、交通反則金のお金を納めなくてはならなくなったりします。
このとき、行政(この例では警察)は、私たちの言い分を聞かず、一方的にレッカー移動したりしますよね。
「ちょっと買い物するのに、車を止めていただけやんか~」
と私たちが叫んでも、
「しょうがない、罰金少しまけといたるわ」
と、交通反則金が安くなるわけではありません。
(大阪弁なのは、特に意味はありません・・・)
この例のように、行政は、ときには権力を使って活動をしている、ということを理解しておいてください。
【図表1:行政の活動】
さて、この権力というものは、けっこうクセ者でして、うまく利用すると、国の秩序が保たれて、暮らしやすくなったりしますが、間違って使うと、人権を踏みにじってしまいます。
ちょうど、薬みたいなものですね。適量を飲めば、病気に効きますけど、大量に飲むと、副作用が出て、私たちを苦しめる・・・
なので、私たちの人権をまもるためには、この権力を持っている行政を、うまくコントロールすることが必要になります。
そこで考えられたのが、「法律による行政の原理」です。次の図表2を見てください。
【図表2:法律による行政の原理】
この図では、危険な権力を持つ行政を、法律が綱を引いて、コントロールしようとしていますね。
法律は、国民の代表者が集まる国会で作られるルールです。だから、法律でコントロールするということは、間接的に、国民がコントロールしている、と言うことができます。
法律による行政の原理とは、この図のように、行政活動を法律により民主的にコントロールすることによって、国民の権利・自由を護ろうとすることをいうのです。
この用語と考え方は、非常に重要ですので、しっかりと頭に叩き込んでおきましょう。
さて、この法律による行政の原理ですが、もう少し具体的な話をしますと、それは「法律の優位の原則」「法律の留保の原則」「法律の専権的法規創造力」という原則に表れてきます。
これらについて、少し説明をしておきますね。
(1)法律の優位の原則
法律の優位の原則とは、行政の活動は、法律に違反して行われてはならないとする考え方のことをいいます。
つまり、行政の活動より法律の方が優位な位置にある、ということです。
まあ、当たり前のことをカッコよく(?!)言っているようなものですかね。
ですので、この原則は、どのような行政活動についても当てはまるものなんですが、これだけだと、一般の人の権利利益を護れないんです。
例えば、中学校の校則に「授業中は先生の話を聞くこと」というのがあったとします。
この校則の裏をかくと、授業中以外は先生の話を聞かなくても校則違反にならないですよね。
だから、極端な話ですが、昼休みに校庭で打ち上げ花火をしていて、先生に「危ないからやめろ!」と言われても、言うことを聞かなくても良いことになってしまいます。
行政の活動についても同じようなことが起こってしまいます。
例えば、「消費税は5%とする」という法律があったとします。
これを、裏をかえせば、消費税以外なら50%取っても法律違反にならないことになってしまいますね。
そこで政府が「買い物税を50%支払え!」なんて言っても良いことになってしまいます。
このように、法律の優位の原則が守られているだけでは、必ずしも私たちの権利利益が護られることにはならないということなんです。
そこで出てくるのが、次の「法律の留保の原則」です。
(2)法律の留保の原則
法律の留保の原則とは、行政の活動が行われるためには、法律の根拠・授権が必要であるとする原則です。
この原則があると、例えばさっきの例で、買い物税を取ることは、「買い物税50%取っても良い」という法律の定め(これを法律の授権といいます)がない、つまり法律の授権がないから、取ってはいけないことになりますね。
このように、法律による行政の原理に、法律の優位の原則だけでなく、法律の留保の原則も含まれていれば安心です。
ただ、法律の優位の原則と異なり、行政のすべての活動に法律の留保の原則が当てはまるかというと、そうではないと考えられています。
例えば、公務員の人がお昼ごはんを食べるのにも「公務員はお昼ごはんを食べてもよい」という法律が必要になり、わずらわしくなってしまいますから。
では、どんな行政活動には法律の根拠が必要で、どんな行政活動には法律の根拠が必要でないのでしょうか。
それについては、図表3のイメージのように、「世間一般の人の権利利益を侵害する行政活動だけ法律の根拠が必要である」とする侵害留保説や、
「すべての行政活動に法律の根拠が必要である」とする全部留保説、
「公権力の行使をする場合に法律の根拠が必要である」とする権力留保説などがありますが、現在ではこれが唯一正しい!とされている考え方はありません。
ですので、まずは、行政の活動には法律の根拠が必要だけど、行政の全ての活動に法律の根拠が必要とされているのではないんだ、ということが理解できていれば良いでしょう。
【図表3:法律の留保の範囲のイメージ】
(3)法律の専権的法規創造力
文字だけ見ていると、何やらとっても難しい理論のような気がしますが、憲法を勉強された方ならすぐ理解できます、というか、すでに理解されています。
法律の専権的法規創造力とは、新たに法規を創造できるのは法律だけであって、行政は法律の授権がなければ法規を創造することはできない、とする考え方のことです。
「って、やっぱり難しい理論やんか~」
と思われたかもしれませんね。
その理由としては、言い回しが「創造」なんて固い言葉を使っているのもあるんですが、それよりも「法規」という用語をまだ学んでいないからです。
法規という用語は、行政立法で出てきますが、ここでは「世間一般の人の権利義務に影響を与えるルール」と理解しておけば良いです。
ですので、つまりは、国の重要なルールは、国会で法律として定めましょう。行政は勝手にルールを作っちゃダメ!という考え方だと言えますね。
これ、憲法41条で学んだでしょ?「唯一の立法機関」って。そのことを言っているのです。
ただ、法律の授権があれば、行政もルール作りができるということです。
ですので、法律の留保の原則の、ルール作りバージョン、みたいな感じです。
だから、法律の専権的法規創造力を、法律の留保の原則に含めて、「法律による行政の原理は、具体的には、法律の優位の原則と法律の留保の原則の2つに表れる」ということもあります。
とにかく、法律による行政の原理が、ルール作りに当てはめられたものが、法律の専権的法規創造力なんだということが理解出来ればオッケーです。
2.行政作用法の全体像
次に、行政作用法の全体像をお話します。
行政は、とても幅広く活動を行っています。ですので、それらを大きく7つの分野に分けて、説明していきますね。
次の図表4を見てください。
【図表4:行政作用法の全体像】
とりあえずは、この図をしっかりと憶えておいてください。詳しいイメージは、これからの講義でつかめるようになりますからね。
今の段階では、脳みそに、知識を蓄え、整理するための「引き出し」「整理タンス」作りをすることが大事です。そうしないと、知識が混乱してしまい、勉強すればするほど、よく分からなくなってしまいます。この分類図が、脳の「引き出し」「整理タンス」になりますので、行政作用法といえば、この7つの分類用語がスラスラっと言えるように頑張って憶えましょう。
次回から、この7つに分類されたそれぞれについて、もう少し詳しく学んでいきます。
(終わり)
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