行政法「行政組織法」
ここは、行政法「行政組織法」を講義している教室です。ここでは、行政組織法について、お話をしていきます。
1.行政ってナンだ?
前回の講義で、行政法とは「行政」に関する法律をまとめたもの、ということを勉強しました。でも、そもそも「行政」とは何か?については説明していませんでしたね。そこでまず、行政とは何か、についてお話します。
少し、歴史のお話をします。むか~しむかし、ある国で、その国の権力を全て握っている王様がいました。学校で学んだ歴史でいうと、絶対君主制とか、絶対王政とか呼ばれていた時代です。
でも、市民革命が起こり、王様は、その国の住民から「私たちの自由・人権を踏みにじるな!」と言われました。
その市民革命をきっかけに、もともと王様の手元にあった全ての権力から、立法権が取られ、司法権が取られていきました。
そして、王様の手元には、その国の権力の全てから、立法権と司法権が取り除かれたものだけが残りましたとさ。チャンチャン。
さて、おおまかに、歴史の流れがつかめましたか?
なぜこんな話をしたかと言うと、この王様の手元に、最後に残った権力が、行政なのです。
そこで、行政とは何か、と言うと、「全ての国家作用から、立法権と司法権を取り除いたもの」と説明されるわけです。数学の式で表すと、
国家作用-立法権-司法権=行政
と、引き算の式で表すことができます。
そして、引き算のことを難しい言葉で言うと、控除と言いますから、行政についてのこの説明のことを、控除説と呼んでいます。
行政とは何か?と聞かれたら、
「え~っと、確か引き算をするんだったな」
と思い出せるように憶えておいてください。
【図表1:行政とは何か】
2.行政組織の基礎用語
行政組織法の分野では、重要ポイントが2つあります。そのうちの1つが、基礎用語です。
行政書士試験や公務員試験では、行政組織法の分野からは、あまり出題されません。でも、ここで勉強する基礎用語は、のちに勉強する重要分野でも出てくる用語です。この用語が解らないと、重要分野も理解できませんので、今のうちに理解して憶えておきましょう。
それでは、次の図表2を見てください。
【図表2:行政の組織】
この図は、大阪府を例にあげて説明した図です。今から、この図を使って、基礎用語を説明していきますね。
(1)行政主体
行政主体とは、国や都道府県、市町村など、権利義務の主体となることができる団体のことをいいます。
例えば、「大阪府」は行政主体です。大阪府には、府が運営する公園がいくつかあります。この公園は誰のものか解りますか?
「そんなの簡単だよ。大阪府のものだよ」
そうですね。その通りです。これを、もう少し法律的に言うと、
「府が運営する公園の所有権は、大阪府にある」というふうになります。
所有権という権利は、「これは私のものだ!」と主張する権利、くらいのイメージを持っておいてください。
ですので、大阪府は「この公園は府のものだ!」と主張する権利を持っている、ということです。
この「大阪府」の例のように、権利(や義務)を持つことが認められる立場のことを、権利義務の主体と言うのです。
この、権利義務の主体となれるのは、生きている人間と、法律で認められた団体です。生きている人間のことを自然人、法律で認められた団体のことを法人といいます。また民法で学びますから、今のうちに憶えておきましょう。
さて、この行政主体は、法人です。ですので「行政主体とは、権利義務の主体となることができる団体のことである」と言われるのです。
(2)行政機関
行政主体は、権利義務の主体である、と言っても、しょせんは団体・組織体。自分で勝手に動き出すことはありません。勝手に大阪府が動いている絵を想像すると、少し怖いですが(いや、笑えてしまうかな?)・・・
さて、行政主体は、実際には人間が動かしています。その、行政主体を動かしている人(や、その集団)のことを行政機関というのです。
正確には,その人が就任するポスト・地位のことなのですが,今は行政機関とは行政主体を動かしている「人」だという理解でオッケーです。
なんか、行政主体というと、人っぽいイメージがしますが人ではありません。逆に、行政機関というと、機関車というのがあるくらいですから、人っぽくないイメージがありますが、人のことです。言葉のイメージと、その意味が逆になっていますから注意してくださいね。
そして、この行政機関を、その役割によっていろいろ分類することができます。
まず、行政主体の意思決定機関、つまりその組織のトップの人を、行政庁といいます。大阪府なら知事がこれにあたります。
次に、行政庁から意見を求められる専門家集団を諮問機関とか参与機関といいます。
また、行政の運営をチェックすることを「監査」というのですが、この監査をする人を監査機関といいます。
そして、警察や消防署の人など、行政の目的を実現(犯罪の取り締まりなど)するために実力行使をする人を執行機関といいます。
最後に、一般の公務員など、行政庁を助ける一般的な職員のことを補助機関といいます。
それぞれ、用語とその役割を、理解して憶えておいてください。
3.権限の委任と代理
行政組織法の分野での、2つの重要ポイントのうち、もう1つが、権限の委任と代理です。
ところで、あなたは、部屋の掃除など、自分でしていますか?
ちょっと強引ですがf(^^; 、ふだん、部屋の掃除は、あなた自身がしているとします。
でも、試験勉強で一時的に忙しかったり、病気で入院したりすると、部屋の掃除をすることができませんね。
そのような場合、あなたならどうします?
「親にたのめばいいんじゃない」
「ここぞとばかりに、旦那をコキ使う」
など、いろいろ考えられますね。要するに、誰かに掃除をたのめばいいわけですよね。
私たちはこのように、自分がすべきことをすることができないとき、誰かに「代わりに○○をして~」とお願いします。
行政も、同じなんです。自分がやるべき仕事を、なんらかの理由でできないとき、他の人にお願いして、代わりにやってもらうんです。このことを、権限の委任と代理といいます。
そして、委任と代理の違いは、法律で決められた権限の配分に、変更を加えるかどうかです。
委任は、権限の配分に、変更を加えるものです。代理は変更を加えません。
では、1つずつ見ていきましょう。まずは権限の委任からです。次の図表3を見てください。
【図表3:権限の委任】
この図の左の人が、行政庁のAさんで、右の人が行政庁のBさんです。Aさんは、仕事が忙しいので、Bさんに「この権限(仕事)、Bがやって!」とお願いしています。
そしてBさんは、「うん、いいよ。私が代わりにその権限(仕事)をやってあげる」と引き受けています。
権限の委任で、この図のAさんのように、仕事をお願いする人のことを、委任庁と呼びます。反対に、Bさんのように、仕事をお願いされる人のことを、受任庁と呼びます。それぞれ用語を憶えておきましょう。
そして、権限の委任では、もともとAさんの権限(仕事)だったものが、Bさんの権限(仕事)になるのです。
言い換えると、委任のあとは、Aはもうその権限(仕事)をすることができなくなります。反対にBは、その権限(仕事)を自分(B)の仕事としてすることになります。
例えば、家族会議で、お風呂掃除はお父さんの仕事、と決めていたとします。でもお父さんが、
「わし、仕事でしんどいから、お風呂掃除するのは嫌や!」
と言い出しました。
そうしたらお母さんが、
「しょうがないなぁ。じゃあ今日から私がするわ」
と、お風呂掃除を引き受けました。
すると、それからは、お風呂掃除の仕事は、お母さんの仕事となり、お父さんの仕事ではなくなる、というようなものです。
少しまとめて言いますと、こういうことです。ふつう、行政の権限(仕事)の分担は、法律で決められています。「外務大臣は○○の仕事をすること」「法務大臣は××の仕事をすること」というように。
権限の委任とは、法律でこのように決められた仕事の分担に、変更を加えることをいうのです。
では次に、権限の代理についてです。次の図表4を見てください。
【図表4:権限の代理】
権限の代理では、委任とは違い、Bは、自分の仕事としてAの権限を使っていません。Aの権限は、あくまでAのものなのです。Bはただ、Aの仕事(権限)を、手伝っているだけです。ここが委任と代理の、大きな違いです。
例えば、さっきと同じように、お風呂掃除はお父さんの仕事だとします。ある日お父さんが、
「ちょっとカゼ引いたみたい。誰か代わりにお風呂掃除をやってくれ」
と言いました。そこでお母さんが、
「じゃあ、3日間だけお父さんの代わりにお風呂掃除してあげましょう」
と、引き受けてあげました。
すると、確かに3日間は、お母さんがお風呂掃除をしますが、お風呂掃除の担当は、お父さんであることには変わりがありません。
カゼが治ると、またお父さんが、今まで通りお風呂掃除をします。
代理とは、ちょうどこのようなものです。
権限(仕事)の配分には、変更を加えないものを代理と呼ぶのです。
あとは、行政が、必要に応じて、あるときには委任、またあるときには代理と、委任と代理の制度をうまく使い分けながら、合理的に行政運営をしていくことになります。
それでは権限の委任と代理を、次の図表5でまとめておきますので、しっかりと記憶しておいてください。
【図表5:権限の委任と代理のまとめ】
権限の委任・行政庁Aから行政庁Bに,権限を移動させる。
・もともとAの権限を,Bが自分の権限として行う。
・移動させた権限は,Aは行うことができなくなる。
・Aを委任庁,Bを受任庁という。
権限の代理
・行政庁Aの権限は,行政庁Bに移動させない。
・Bは,Aの権限を,Aの権限として行う。
・その権限は,Aのものであることには変わりがない。
・Aを被代理庁,Bを代理庁という。
(終わり)
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