憲法「地方自治」
ここは、憲法「地方自治」を講義している教室です。
今回は,日本国憲法で定められている地方自治について説明しますね。
地方自治については,明治憲法には規定はありませんでしたが,日本国憲法では章を1つ設けて規定しています。
1.地方自治の本旨
それでは,憲法の条文を見てみましょう。
第92条
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
この条文を受けて,地方自治法という法律が作られています。
地方公共団体とは,この地方自治法で詳しく定められているのですが,ここでは「都道府県と市町村」という位の理解でオッケーです。
ここで,「地方自治の本旨」という語ですが,直訳?!すると,「地方自治の本来の趣旨」ということで,何のことやらよく分かりませんね(笑)。
そこで,もう少し意味をはっきりとさせて,「地方自治の本旨とは,住民自治と団体自治のことである」と考えられています。
住民自治とは,地方の団体は,その住民によって自らその事務を処理する,とする考え方のことで,民主主義的な意味合いを持っているものです。
住民が,地方の団体を運営しているようなイメージですね。
また,団体自治とは,地方の事務は,国から独立した地方の団体に委ねられる,とする考え方のことで,自由主義的な意味合いを持っているものです。
こっちは,地方の団体が,国家からむやみに指揮監督されていないようなイメージですね。
【図表1:地方自治の本旨】
これが,地方自治の本旨の意味です。
この地方自治の本旨が憲法で保障されているということは,例えば地方自治の制度を廃止するなどの地方自治の本旨に反することは,憲法違反になります。
2.地方公共団体の機関
憲法では,地方公共団体の機関についても定めています。
次の条文を見てください。
第93条第1項
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
このように,地方公共団体には,地方議会が設置されるということが定められています。
具体的には,各都道府県議会や各市町村議会がありますね。
そして,
第93条第2項
地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。という定めも置いています。
地方公共団体の長とは,都道府県知事や,市町村長のことです。
これらも,地方公共団体の機関として設置され,議会の議員とともに,その住民による選挙によって選ばれることが定められていますね。
【図表2:地方公共団体の機関】
3.地方公共団体の事務など
憲法では,地方公共団体の事務処理についても定めています。
第94条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
地方公共団体は,財産を管理し,事務を処理し,行政を執行する,つまり運営をする権能があることを,憲法が認めていますね。
そして,法律の範囲内で,条例という,地方公共団体が作るルールを定めることができるとしています。
この条例は,その地方公共団体のことについて,地方議会の議決により定められるもので,法律に違反しない限り,自由に定めることができます。
この条例の制定について,少し古い教科書だと,「条例は自治事務についてのみ定めることができる」と書いていますが,これは,昔にあった機関委任事務については条例を定めることができないと考えられていたことから,こう言われていたのですが,現在は,機関委任事務は廃止されましたので,自治事務だけでなく,法定受託事務についても,地方公共団体の事務について,条例を制定できるようになっています。
詳しくは,地方自治法に定められていますので,興味がありましたら,一度目を通してみてください。
その他,条例には罰則を設けることができることも,地方自治法で定められています。
4.地方自治特別法
最後に,地方自治特別法について説明しますね。
地方自治特別法とは,ある一部の地方公共団体にのみ適用される法律のことで,このような法律を国が定める場合には,その地方公共団体の住民投票で,過半数の同意が必要とされています。
次の条文を見てください。
第95条
一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
例えば,東京都だけ消費税を30%とする消費税東京都特別法なるものを制定する場合,東京都民の住民投票を行い,過半数が賛成しないと,国会はこの法律を制定できませんよ,とするものです。
これは,国会単独立法の原則の例外にあたりますね。
【図表3:地方自治特別法】
(終わり)
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