クマべえの生涯学習大学校

憲法「財政」

ここは、憲法「財政」を講義している教室です。

今回は,日本国憲法で定められている財政について説明しますね。


財政とは,「財」の「政」治,つまり,国家の運営に必要なお金を,どう集めてどう使うか,のことを言います。

国家の運営にかかるお金は莫大で,その負担はふつう国民が背負いますよね。
だから,正しく財政が運営されるために,財政についても民主主義でなければなりませんね。
そこで,憲法では83条に,財政の基本原理を明らかにしています。
次の条文を見てください。

第83条

国の財政を処理する権限は、国会の議決に[もとづ]いて、これを行使しなければならない。

財政の処理は,政府が行うのですが,政府が好き勝手に処理できるわけではなくて,「国会の議決」に基づいて行わなければならないことが定められています。これによって,財政を民主的なコントロールを行おうとしているんですね。
これを,財政民主主義といいます。

そして,国の収入や支出は,予算という形式で見積もりをし,国会の議決を[]なければなりません。
次の条文を見てください。

第86条

内閣は、[まい]会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を[]なければならない。

政府(行政府)のトップである内閣が予算を作成し,国会に提出してその議決を経なければならないことが定められていますね。

そして,その財政の主な収入源は,国民から徴収[ちょうしゅう]する税金です。
この税金,むやみやたらに課せられては困りますよね。
この税金を悪いように利用すると,人の財産権を侵害するどころか,自由権ですら侵害することが出来てしまうんです。
例えば,道路を歩いたら「はい,道路歩行税1万円!」とか言われたら,おちおち外に出ることもできなくなってしまいますよね。

そこで,この税金についても,憲法で定めが置かれています。
次の条文を見てください。

第84条

あらたに租税[そぜい]を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

このように,税金をあらたに課したり現在の税金について変更する場合は,国民の代表からなる国会が制定する法律に基づかなければならないと定めています。
これを,租税法律主義といいまして,イギリスで古くから言われている「代表なければ課税なし」という政治原理が由来とされています。 税金に関しても,私たちの代表者が集まる国会で作られる法律に基づくことにより,民主的なコントロールを行おうとしているんですね。

また,集めた税金を無駄遣いするのも問題ですよね。
ですので,支出面についても,憲法で定められています。

第85条

国費[こくひ]を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に[もとづ]くことを必要とする。

国費とは,国の運営にかかる費用のことで,予算に計上[けいじょう]し,国会の議決を経て支出されます。
国の債務負担の細かいことについては,憲法には定めがなくて,財政法で定められていて,法律に基づく場合や,予算に基づく場合などがあります。どちらにせよ,国会の議決を経ることになりますね。

ところで,予算とは,将来考えられる収入と支出の見積もりのことで,計画的に収入支出を考える,ということでは合理的ですが,内閣の人たちは,預言者じゃないですから,
「ん~,来年の秋は,台風が3個上陸し,災害復興費用が80億円かかるぞ。よし,予算を組んでおこう」
なんてことができません。

では,予想できない事態が発生し,費用を支出したいときはどうするか?
それは,予算に,予備費という項目を設けて,そこから支出することができるようにしています。
次の条文を見てください。

第87条第1項

予見[よけん][がた]い予算の不足に[]てるため、国会の議決に[もとづ]いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

このように,予算に予備費を設けて,内閣の責任で支出できるようにしています。
さらに,

第87条第2項

すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

内閣が予備費を好き勝手に使うことの無いよう,国会の事後承諾を受けなければなりません。
予備費の支出にも,国会のコントロールを働かせていますね。

ちなみに,行政書士試験などの各種試験対策として注目しておきたい点は,この予備費の支出についての国会の事後承認です。
これは,内閣の条約の締結についての,国会の事前または事後承認と対比して憶えておきましょう。
予備費の支出は「事後」承諾,それに対して条約の締結は「事前に,時宜に事後に」承認,です。
「承諾」と「承認」の違いを問われることはまず考えられませんが,「事前」なのか「事後」なのかは,問われやすいポイントですので,注意しておきましょう。

では話を戻しますね。
国の収入支出の集計は,1年単位で行います。これを会計年度といい,毎年4月1日から翌年の3月31日までが会計年度です。
そして,1年間の会計年度が終了したら,1年間の収入支出を整理し,決算を行います。
その決算も,国会のコントロールを働かせています。
次の条文を見てください。

第90条第1項

国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

このように,決算を作成し,会計検査院の検査を受け,内閣が国会に提出します
この条文に出てきた会計検査院という行政機関については,法律で定めることが憲法で定められています。

第90条第2項

会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

さらに,内閣に,財政状況の報告義務を負わせています。

第91条

内閣は、国会及び国民に対し、定期に、[すくな]くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

国会だけではなく,国民に対しても報告義務を負わせている点に注目しておきましょう。

あと,皇室財産についても,民主的なコントロールをしようとしています。

第88条

すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決[]なければならない。

そして,最後に,憲法では,公金の支出についての制限についても定められています。

第89条

公金[こうきん]その他の[おおやけ]の財産は、宗教上の組織[]しくは団体の使用、便益[べんえき]若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛[はくあい]の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

国や地方公共団体などが持っているお金や財産を,宗教団体や公の支配に属しない慈善団体などに支出したりすることを制限しています。
「公の支配に属しない」団体の意味については見解が分かれているのですが,とりあえずは国や公共団体の一定のコントロールが及ばない団体と理解しておけばよいでしょう。

そして,この条文の前半部分は,政教分離の原則を財政面から定めたものである点に注目しておきましょう。

【図表1:財政民主主義】

財政民主主義

(終わり)

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