憲法「裁判所(4)」
ここは、憲法「裁判所(4)」を講義している教室です。
今回は,裁判所について,今までにまだお話していないところを説明しますね。
1.裁判官の職権の独立
司法権の独立を確かなものにするため,裁判官の職権の独立が憲法で保障されています。
次の憲法の条文を見てください。
第76条第3項
すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
このように,裁判官に対する不当な干渉や圧力を排除するため,「良心に従い,独立して職権を行う」ことと,裁判官は「憲法・法律にのみ拘束される」ということが保障されています。
そして,裁判官の職権の独立について,他には,次の条文があります。
第78条後段
裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
このように,行政機関が,裁判官の懲戒処分を行うことは禁止されています。
ちなみに,裁判所内部の訴訟手続きで,裁判官の懲戒処分を行うことは可能です。
例えば,次の裁判所法の条文を見てください。
裁判所法第49条
裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を?辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。2.裁判官の身分保障
次に,裁判官の身分保障についてです。次の条文を見てください。
第78条前段
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。
このように,裁判官は,罷免される場合(辞めさせられること)を限定することで,身分の保障がなされています。
この条文では,罷免される場合を2つあげていますね。それを1つずつ見てみましょう。
①裁判により,「心身の故障のために職務を執ることができない」と決定された場合
ここでいう「裁判により」とは,民事裁判や刑事裁判のことではなくて,「裁判所の内部の訴訟手続きにより」という意味です。
ですので,裁判所内部の訴訟手続きで「あなたは,病気で裁判官の職務を長期間行うことはできないですよね」と決定された場合に罷免される,ということです。
この手続きは,高等裁判所または最高裁判所で行われます。
しかし,いくら病気とはいえ,本人が「まだ働けます!」と言っているのに,無理やり辞めさせられる決定がされるのは不本意ですよね。
だから,この裁判所内部の訴訟手続きも,結構厳しめの要件が定められています。参考に,次の裁判官分限法の条文を2つ見てください。
裁判官分限法第1条第1項
裁判官は、回復の困難な心身の故障のために職務を執ることができないと裁判された場合及び本人が免官を願い出た場合には、日本国憲法の定めるところによりその官の任命を行う権限を有するものにおいてこれを免ずることができる。裁判官分限法第4条
分限事件は、高等裁判所においては、五人の裁判官の合議体で、最高裁判所においては、大法廷で、これを取り扱う。重要な事件を扱う場合と同じような手続きになっているのが分かるでしょうか?
②公の弾劾による場合
国会により設置される弾劾裁判所で「この裁判官は辞めさせる」と弾劾された場合,罷免されるということです。
そして,この憲法の条文を受けて,裁判所法で,次のように定められていますので,参考にしてみてください。
裁判所法第48条
裁判官は、公の弾劾又は国民の審査に関する法律による場合及び別に法律で定めるところにより心身の故障のために職務を執ることができないと裁判された場合を除いては、その意思に反して、免官、転官、転所、職務の停止又は報酬の減額をされることはない。
あと,この条文では出てきませんが,以前学んだものとしては,
最高裁判所裁判官の国民審査で,罷免を可とする票が多数ならば,罷免されるのでしたね。思い出しておきましょう。
3.違憲法令審査権
次に,違憲法令審査権についてです。
違憲法令審査権とは,法律や命令などが,憲法に違反するかどうかを審査する権限のことです。
次の憲法の条文を見てください。
第81条
最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。条文の上では「最高裁判所」に違憲法令審査権を認めるとされていますが,下級裁判所にも違憲法令審査権は認められます。
ただし,具体的な事件が起こってもいないのに,
「○○法って,憲法に違反しますよね?」
という訴えがあっても,この権限は行使することが出来ないとされています。
具体的な訴訟事件があって,その事件を解決するために必要な限度において,違憲法令審査権を行使することができる,と考えられているのです。
この考え方を,付随的違憲審査制と呼んでいます。
この専門用語を,内容を理解した上で憶えておきましょう。
4.裁判の公開
人権の単元でも,公開裁判が保障されていることを学びましたね。復習がてら,条文を確認してみましょう
第82条第1項
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。ただし,次のように,対審は非公開にできます。
第82条第2項本文
裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。
このように,裁判所が「裁判官の全員一致」で,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」と決定した場合は,「対審」は,非公開で行うことができます。
言い換えると,たとえ裁判所が「裁判官の全員一致」で,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」と決定したとしても,判決は非公開にはできません。
そして,この対審の非公開について,例外が定められています。
第82条第2項但書
但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
このように,
・政治犯罪
・出版に関する犯罪
・憲法第3章で保障する国民の権利(基本的人権のこと)が問題となっている事件
の場合は,対審を非公開にすることはできません。
では,この裁判の公開について,図にまとめておきましょう。
【図表1:裁判の公開】
(終わり)
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