憲法「内閣(1)」
ここは、憲法「内閣(1)」を講義している教室です。
今回は,内閣の組織について説明をします。
1.三権分立と内閣
内閣は,三権分立でいうところの行政権を担当する機関です。
次の憲法の条文を見てください。
第65条
行政権は、内閣に属する。
ただし,内閣が行政権を担当していると言っても,直接的な行政の実施を行っているわけではありません。
次の図表1のように,実際の具体的な行政活動の実施は,行政各部が行っているのでして,内閣は総合的な政策決定を行う統括機関としての役割を持っています。
【図表1:三権分立と内閣】
2.内閣の組織
(1)内閣の組織
次に内閣の組織についてです。次の条文を見てください。
第66条第1項
内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
このように,内閣は,リーダーである内閣総理大臣と,国務[こくむ]大臣と呼ばれる人たちで作られているチームのことを言います。
次の図表2を見てください。
【図表2:内閣の組織】
このように,内閣はチーム制で,行政権を担当しています。
ちなみに,内閣についての細かい内容については,内閣法という法律に規定されています。
例えば,
内閣法第2条第2項
前項の国務大臣の数は、十四人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、三人を限度にその数を増加し、十七人以内とすることができる。
というように,国務大臣の人数が定められていたりします。
ただ,2013年11月8日現在の,第2次安倍内閣の国務大臣の人数は,18人も!いるんです。
さっき見た内閣法によると,最大17人なので,現在の第2次安倍内閣は,法律違反でもしているの?という疑問が出てきてしまいますよね。
これについて説明しておきますと,東日本大震災からの復興を目的として,2012年2月10日に復興庁設置法が施行されたんですが,この法律により,内閣に復興庁が設置されました。
そして,この復興庁が設置されている間は,国務大臣の数を「14人以内,最大17人以内」から1人増やして「15人以内,最大18人以内」とすることになったんです(内閣法附則2項)。
だから,現在の第2次安倍内閣は,国務大臣が18人もいたのでした。
では,話を戻して,内閣の組織の続きです。内閣法では,
内閣法第3条第1項
各大臣は、別に法律の定めるところにより、主任の大臣として、行政事務を分担管理する。ということも定められています。
この条文の意味は,国務大臣は,原則として,主任の大臣として行政事務を担当するということなんですが,ココが理解しにくいところですよね。
まずは,次の図表3を見てください。
【図表3:国務大臣と主任の大臣】
この図の,国務大臣のAさんを見てください。
Aさんは,国務大臣なので,内閣の構成員の1人として,内閣の仕事を行います。
さらに,Aさんは,財務省のトップである財務大臣として,財務省の仕事も行います。
このように,Aさんは,国務大臣と財務大臣を兼任しているわけです。
また,Bさんに注目すると,Bさんは,国務大臣と法務大臣を兼任していますね。
さっきの内閣法第3条第1項は,このような兼任について定めていたのでした。
条文の「各大臣」とは,国務大臣のことで,「主任の大臣」とは,財務大臣のような各省庁のトップのことを指していたのでした。
この財務大臣のような「各省庁のトップ」という意味での大臣を,行政大臣と言うこともあります。
ちなみに,図表3のCさんのように,「主任の大臣」を兼任しない国務大臣がいる場合もあります。
このことは,内閣法3条2項に定められています。
内閣法第3条第2項
前項の規定は、行政事務を分担管理しない大臣の存することを妨げるものではない。このような行政事務を分担管理しない大臣のことを無任所大臣と呼ぶことがあります。
なお,現在の内閣を具体的なイメージを持ちたい方は,息抜きがてら,首相官邸のホームページをのぞいて見るといいですよ。
(2)文民
内閣総理大臣や国務大臣は,全員文民でなければなりません。文民とは,いろいろな説がありますが,とりあえずは「軍人ではない人」と理解しておけばよいでしょう。
次の条文を見てください。
第66条第2項
内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
これは,シビリアン・コントロール(civilian control)=文民統制の原則の表れと考えられます。
文民統制の原則とは,軍事権を,議会に責任を負う文民の大臣によってコントロールし,軍の独走を抑止する原則のことです。
ここで,「議会に責任を負う大臣」については,議院内閣制のところで説明しますね。
とりあえずは,軍事権のトップを軍人ではない人(文民)に担当させて,軍を文民によりコントロールしようとする原則,と理解しておけば十分です。
(3)国務大臣の要件
では次に,国務大臣の要件について見てみましょう。
第68条第1項但書
その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。「その」とは,「国務大臣の」のことですので,国務大臣の過半数は,国会議員の中から選ばれなければなりません。
例えば,2013年11月11日現在,国務大臣は18人いますから,過半数の10人以上は,国会議員の中から選ばれます。
この要件を充たしておけば,例えば法務大臣を,国会議員ではない,大学の教授から選ぶ,ということも可能です。
ではここまでを,次の図表1でまとめておきましょう。
【図表4:国務大臣の要件】
(4)選任など
では次に,内閣総理大臣や国務大臣の選ばれ方について見ていきましょう。
①内閣総理大臣
まずは内閣総理大臣からです。次の条文を見てください。
第67条第1項
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
このように,内閣総理大臣は,国会議員の中から,国会の議決によって選ばれます。
そして,
第6条第1項
天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
このように,天皇の国事行為により任命されます。
ここでの,国会の「指名」と天皇の「任命」ですが,実質的な選任権は国会にあって,天皇はただ形式的に太鼓判を押しているだけ,というくらいの理解でよいでしょう。
②国務大臣
次に国務大臣についてです。次の条文を見てください。
第68条第1項本文
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。
このように,国務大臣は,内閣総理大臣により選任・任命されます。
そして,
第7条5号
国務大臣(中略)を認証すること。
とあるように,天皇の国事行為として,認証されます。
ここでの,内閣総理大臣の「任命」と天皇の「認証」ですが,実質的な選任権は内閣総理大臣にあって,天皇はただ形式的に太鼓判を押しているだけ,という理解でオッケーです。
では,ここまでを表にまとめておきましょう。
【図表5:国務大臣等の任命など】
さらに,次の条文を見てください。
第68条第2項
内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
「任意に」とは「自由に」,「罷免する」とは「辞めさせる」という意味ですので,置き換えて読んでみてください。
つまり,内閣総理大臣は,自由に国務大臣を辞めさせることができます。
ですので,国務大臣に,なんら落ち度がなくても,内閣総理大臣はその国務大臣を辞めさせることができるんです。
このように,日本国憲法では,内閣総理大臣に首長としての地位を認めて,権限を強化されていることを理解しておきましょう。
(終わり)
→次の憲法「内閣(2)」に進む
←前の憲法「国会(2)」に戻る
☆入門講義の「憲法」の目次に戻る
☆法律入門講義の目次に戻る