憲法「国会(2)」
ここは、憲法「国会(2)」を講義している教室です。
今回は,国会の権能と議院の権能について説明をします。
1.国会の権能
それではまず,国会の権能についてお話しますね
権能というと難しく感じますが、日本国憲法で定められた国会の役割、と理解しておけば良いと思います。
憲法では,この国会の権能として、皇室財産授受の議決、法律案の議決、条約の承認、内閣総理大臣の指名、内閣の報告を受ける権能、弾劾裁判所の設置、財政の統制、憲法改正の発議、が定められています。
それでは、これらのうち特に重要なものをいくつか見ていきましょう。
(1)法律案の議決
法律案の議決は,国会の権能の中心的なものですね。次の条文をみてください。
第59条第1項
法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
このように、衆議院と参議院のそれぞれで、法律案が可決されると、法律になります。
例外として、「この憲法に特別の定めがある場合」とありますが、これは、次に見るように衆議院の優越が定められている場合と、後日学ぶ地方自治特別法(95条)を定める場合があります。
ちなみに、可決とは、その法律案が法律として成立することに賛成するという意味です。
では次の条文です。
第59条第2項
衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
衆議院で可決したのに、参議院で否決したり、修正案を可決した場合でも、衆議院で出席している議員の3分の2以上の特別多数決で再び可決したときは、もともとの法律案が法律として成立することが定められています。
つまり、衆議院と参議院とで食い違った場合、衆議院の特別多数決で再議決すると、衆議院の議決が優先される、ということです。
このように,参議院に比べて,衆議院の議決の方が重要視されていることを、衆議院の優越と言います。
【図表1:衆議院の特別多数決】
さて、この条文では、衆議院の特別多数決による再可決のみ定めていますが、実際はそれだけではなくて,様々なパターンが考えられます。
例えば,衆議院で可決し、参議院で否決された場合、法案の成立をあきらめることもできます。これを廃案といいます。
また、衆議院で可決し、参議院で修正案を可決した場合、もともとの法案(これを原案といいます)はあきらめて、その修正案を可決する、ということもできます。この場合、衆議院でこの修正案を議決するのは初めてですから、再議決の要件である出席議員の3分の2以上の賛成は必要ありません。出席議員の過半数で可決したときに法律が成立します。
結構ややこしいでしょ?法律案を、慎重に審議する趣旨だと思われます。
さらに、次の条文を見てください。
第59条第3項
前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
このように、衆議院で可決したけど参議院で否決したり修正案を可決した場合、衆議院は、参議院に「両院協議会を開きましょう」と持ち掛けて、両議院の代表者が集まって話し合いをし、意見の調整をすることができます。
この場合、両議院の協議会(略して両院協議会といいます)は、後で見る予算案の議決などと異なり,開いても良いですし、開かなくても良いです。
そして、両院協議会を開いたとして、
結局,話し合いが決裂したので廃案にする、という場合もありますし、
話し合いの結果,修正した協議案で合意できたので、その案を各議院で可決して法律にする場合もありますし、
参議院を説得して、参議院で原案を可決してもらって、原案を法律にする場合もありますし、
話し合いが決裂したので、衆議院で原案を特別多数決で再可決して、原案を法律にする場合もあります。
とってもややこしいですね。
では、最後に、次の条文を見てください。
第59条第4項
参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
衆議院で可決した法律案が参議院に回されたんだけど、参議院が国会休会中を除いて60日以上経っても議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる、という規定です。
「みなすことができる」なので、否決したものとみなさなくても良い、ということです。
「まあ、ゆっくり待ちましょう」としても良いわけです。
もし,衆議院で、参議院が否決したものとみなす議決を行ったあとは、さっき学んだように、衆議院で可決し、参議院で否決した場合と同じように処理します。
それでは、この59条の法律案の議決をフローチャートにまとめておきますので、何回も目でたどりながら理解を深めておいてくださいね。
【図表2:法律案の議決】
ちなみに,法律案は,先に参議院で審議しても良いですので,参議院で可決したけど衆議院で異なる議決をしたときは・・・
なんてことも起こり得ますが,こんなことを考えたら,とってもややこしいですね。
この場合,参議院から両院協議会を開きましょうと持ちかけることもできたりして。。。
日本国憲法では,両院協議会は衆議院から開催を持ちかけることしか定めていないのにね。
まあ,憲法の試験では出てこないので大丈夫ですよ。
興味がありましたら,国会法をよく読むと書いていますので参考までに。
(2)予算の議決
次は,予算の議決を見てみましょう。次の条文を見てください。
第60条第1項
予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
これは,衆議院の予算先議権と呼ばれるものを定めている条文です。
他の案件は、先に参議院で議決を行ってから衆議院で議決を行っても良いのですが、予算の議決は必ず衆議院から先に行わなければなりません。衆議院の優越の1つですね。
では次の条文です。
第60条第2項
予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
少し長いですが、法律案の場合に比べて、かなり簡素化されているのが分かりますでしょうか。
予算は、法律案と比べて、早く議決しなければなりません。予算の議決が滞れば、国の運営がストップしてしまいますから。
この条文の内容を説明しますと,まず,参議院が衆議院と異なる議決をした場合、必ず両院協議会が開かれます。
法律案の場合は,両院協議会を開くかどうかは自由でしたよね。でも,予算の場合は,必ず開かれるんです。
そして,その両院協議会で意見が一致すれば、あとは各議院で議決を行って完了。
もし両院協議会で意見が一致しないときは、衆議院の議決が国会の議決として完了。参議院の議決は無視されます。これも衆議院の優越ですね。
さらに、衆議院が可決した予算を、参議院が受け取ったあと30日以内に議決しないときも、参議院は無視され、衆議院の議決だけで予算が確定します。
法律案は60日だったのが,予算は30日と短くなっているでしょ。
そして,法律案は「否決したものとみなすことができる」だったのに,予算は「衆議院の議決が国会の議決」になっているでしょ。
このように,法律案と違って,予算の場合は,さっさと議決を確定させましょ、というシステムになっているんです。
(3)条約の承認
では次に,条約の承認についてです。
例えば,内閣が外交をして、他国と条約を結ぶことになったとします。
その場合、国会の承認が必要とされています。
その条約の承認の議決についてです。
次の条文を見てください。
第61条
条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
つまり、予算の議決と同じように議決する、ということです。
ただし、衆議院の先議権は準用されていませんので、条約の場合は、先に参議院で審議しても良いです。
(4)内閣総理大臣の指名
内閣総理大臣を選ぶのも,国会の仕事です。次の条文を見てください。
第67条第1項
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
内閣総理大臣は,日本国の運営責任者ですから,内閣総理大臣はとにかく早く選ばないといけません。
ですので,「他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。」とされています。
また,次の条文を見てください。
第67条第2項
衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
衆議院と参議院とで,内閣総理大臣として選んだ人が異なる場合は,両院協議会を必ず開きます。この点,予算や条約の承認の場合と同じですね。
そして,両院協議会で意見が一致しないときは、衆議院で選んだ人が内閣総理大臣になります。参議院の指名は無視されます。これも衆議院の優越で,予算や条約の承認の場合と同じですね。
さらに,衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて10日以内に、参議院が、指名の議決をしないときも,衆議院で指名した人が内閣総理大臣になります。やっぱり予算や条約の承認の場合と同じく,衆議院の優越で,参議院の指名は無視されます。
しかも,日数が「10日」になっているでしょ。いかに緊急に指名しなければならないかが分かりますよね。
それでは,少し知識をまとめておきましょう。
【図表3:知識のまとめ】
(5)憲法改正の発議
それでは次に,憲法改正の発議です。
注意しておきたいことは,国会の権能は,「憲法改正」ではなく,「憲法改正の発議」であることです。
発議とは,議案を発する,国民に憲法改正案を提案するというくらいに理解しておいてください。
つまり,国会は,国民に対して「憲法を改正しませんか?」と議案を示すことが仕事で,憲法改正権は持っていないということです。
憲法改正権を持っているのは国民ですので,お間違えなく。
では,条文を確認しておきましょう。
第96条第1項
この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。憲法改正については,憲法の講義の最後の方で,もう少し詳しくお話しますので,ここでは,憲法改正の発議は国会の権能の1つなんだなぁって思っていただくくらいでオッケーです。
(6)弾劾裁判所の設置
これは,今までに見てきた国会の権能とは,少し雰囲気が違います。
弾劾裁判所とは,悪いことをした裁判官を辞めさせるかどうかを判断する裁判所のことで,国会は,この弾劾裁判所を設置する権能があります。
次の条文を見てください。
第64条第1項
国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。少し細かくなりますが,裁判官が弾劾で罷免(辞めさせること)される流れを簡単に見ておきますね。
①次の要件をみたすときに,弾劾で罷免されます(裁判官弾劾法2条)
・職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。
・その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。
②各議院から選ばれた各10人の訴追委員により組織される裁判官訴追委員会が,罷免の訴追を行います。
ちなみに,訴追とは,罷免の弾劾裁判を求めることです。
③各議院から選ばれた各7人の裁判員により組織される弾劾裁判所で,裁判官の弾劾裁判が行われます。
なお,この弾劾裁判所は,国会により設置されますが,国会の付属機関ではなく,国会から独立した機関です。
ですので,次のような問題文は,いずれも誤りです。
・国会は,その付属機関として弾劾裁判所を設置する権能を有する。
・国会は,罷免の訴追を受けた裁判官の弾劾裁判を行う権能を有する。
弾劾裁判所は,国会の付属機関ではありませんし,国会が弾劾裁判を行うのでもありません。
【図表4:弾劾裁判所の設置】
以上が国会の権能で,重要だと思われるものです。
次に見る議院の権能と,区別して憶えておきましょう。
2.議院の権能
次は,議院の権能についてお話しますね。
日本国憲法で,議院の権能として定められているのは,国政調査権,議院規則の制定,議員の懲罰,議員の資格争訟裁判,議員逮捕の許諾・釈放の要求,秘密会の決定,役員の選任,国務大臣の出席要求,が挙げられます。
それでは,これらのうち,重要なものを1つずつ見ていきましょう。
(1)国政調査権
まずは,国政調査権についてです。
ちなみに,たまに頼まれることがある「国勢調査」とは違いますのでご注意ください。
では,次の条文を見てください。
第62条
両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。
国の政治を的確に行うためには,様々な情報を調査する必要があります。
明治憲法では,このような条文はなかったのですが,日本国憲法では,国会を国政の中心的な機関として位置づけていますので,それぞれの議院に国政調査権があることが明記されています。
この条文で,証人とは,調査している事項について知識・経験を持っている人という意味です。
また,証言とは,証人が口頭で述べることです。
そして,記録とは,一切の書類のことで,公文書に限りません。
この国政調査権の限界としては,次の2つが重要です。
①司法権との関係
現に裁判が進行中の事件について,裁判官の訴訟指揮などを調査したり,裁判の内容を批判する調査をしたりすることは許されません。
ただし,裁判所で審理中の事件の事実について,議院が裁判所と異なる目的から,裁判と並行して調査することは,司法権の独立を侵しませんから,許されると考えられています。
②検察権との関係
検察権は,行政権の作用なので,国政調査の対象になりますが,裁判と密接にかかわる作用でもありますから,検察権に政治的圧力を加える目的での調査などは認められないと考えられています。
判例(東京地判昭和55.7.24「日商岩井事件」)でも,「起訴・不起訴についての検察権の行使に政治的圧力を加えることが目的と考えられるような調査や,起訴事件に直接関連ある捜査および公訴追行の内容を対象とする調査や,捜査の続行に重大な支障をきたすような方法で行われる調査のときには自制が要請される」と判示されている通りです。
(2)議院規則の制定
次に,議院の規則制定権についてです。次の条文を見てください。
第58条第2項
両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め(中略)ることができる。
このように,衆議院は衆議院規則を,参議院は参議院規則を,それぞれ定めることができます。
これは,国会中心立法の原則の,憲法が定めた例外にあたりますね。
(3)役員の選任
次は,それぞれの議院での,役員の選任についてです。次の条文を見てください。
第58条第1項
両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。このように,衆議院は衆議院で衆議院議長その他の役員を選任することができますし,参議院は参議院で参議院議長その他の役員を選任することができます。
例えば,2013年10月22日現在,衆議院議長は伊吹文明さん,副議長は赤松広隆さん,常任委員長として,内閣委員長は柴山昌彦さんが,それぞれ就任されています。
これらは,それぞれの議院の自律権として認められているんです。
(4)議員の懲罰
それぞれの議院は,議院の自律権に基づいて,その所属する議員が議院の秩序をみだしたときは,懲罰することができます。
次の条文を見てください。
第58条第2項
両議院は、各々(略)院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
これを受けて,例えば,衆議院規則241条では,公開議場での陳謝について定められていたり,衆議院規則242条では,登院停止について定められていたりします。
ただし,議員を除名する場合は,出席議員の3分の2以上の多数決が必要です。
(5)議員の資格争訟裁判
次に,議員の資格争訟裁判についてです。一見,さっきの議員の懲罰の1つである議員の除名とよく似ているように思えますが,全く異なる制度です。
では,次の条文を見てください。
第55条
両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。さっきの議員の懲罰の除名は,議員の資格があることを前提に,その議員が何か悪いことをしたので懲罰し,議員を除名する,というものです。
それに対してこの議員の資格争訟裁判は,議員が悪いことをしているかどうかに関係なく,
そもそも「あなたって,議員になる資格あるの?」
ということをはっきりさせる制度です。
例えば,衆議院議員になるためには,満25歳以上であることが必要ですが,ある衆議院議員は,満25歳のときに当選して議員になったけど,出生に関してはっきりしない点が見つかり,もしかしたらまだ満24歳かも知れない,という場合に,衆議院で,その議員の資格を争う裁判を行うことができる,という制度が,資格争訟裁判です。
そして,その議員の議席を失わせるには,つまり辞めさせるためには,出席議員の3分の2以上の多数決が必要です。
この,議員の懲罰としての除名と,資格争訟裁判を,混同しないように注意しておきましょう。
以上が,議院の権能と呼ばれるものです。国会の権能とごっちゃにならないよう,知識を整理して憶えておきましょう。
(終わり)
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