憲法「内閣(2)」
ここは、憲法「内閣(2)」を講義している教室です。
1.議院内閣制
まず初めに,議院内閣制についてお話しますね。
議院内閣制とは,議会政とも言われていて,18世紀から19世紀にかけてイギリスで成立していった政治形態です。
その後の歴史の流れとともに,議院内閣制の形も少しずつ変わっていったり,イギリス以外の国でも議院内閣制に似た政治形態を採ったりしているため,
「議院内閣制とはこのような政治形態だ!」
と,画一的に説明しにくくなっています。
あえて,議院内閣制の本質とされていることを挙げてみると,
①議会(立法)と政府(行政)が一応分立していること
②政府が議会に対して連帯責任を負うこと
この2点であると考えられています。
と言われても,
「ああ,そうなのか!納得納得」
とはいかないと思います。
ですので,ここでは,日本国の議院内閣制を理解しておけば十分でしょう。
では,日本国の議院内閣制について説明しますね。
次の図表1を見てください。
【図表1:日本の議院内閣制】
この図のように,日本国では,議会の役割は国会が担当し,政府の役割は内閣が担当していて,国会と内閣は,一応分離しています。
そして,次の条文を見てください。
第66条第3項
内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。
このように,内閣は,国会に対して連帯責任を負います。
つまり,内閣の行政権の行使につき,国会から
「そんな行政の運営は認められない!」
と言われたら,それが文部科学省の内容だったとしても,文部科学大臣だけが政治責任を負って辞職するのではなく,
内閣は,内閣総理大臣と国務大臣全員が連帯して政治責任を負い,全員辞職することになります(ただし,衆議院の解散という対抗ができますが)。
この内閣の構成員全員が辞職することを,内閣総辞職と言います。
次の条文を見てください。
第69条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
「不信任の決議案」の可決とは,「内閣の行政の運営の仕方は認められない!」ということが衆議院で可決されることです。
「信任の決議案」の否決とは,「内閣の行政の運営は良いと思います!」ということが,衆議院で否定されることで,結果,不信任決議案の可決と同じと思っておいてよいですね。
このように,内閣は,衆議院で「内閣は信用できない!」と言われたら,全員で連帯して責任をとって,辞職しなければならない,ということです。
ただし,10日以内なら,内閣にも対抗手段があって,
「我ら内閣が信用できるかできないかを,国民に問うてみよう!衆議院解散!総選挙!」
ということで,衆議院の解散という選択肢もあります。
さて,細かいところに入っていきましたが,話を議院内閣制へと戻しますと,
このように,日本国憲法では,
①国会と内閣を一応分離して,②内閣は国会に対して連帯責任を負う
という,議院内閣制の本質的なところが定められているのです。
あと,その他には,内閣総理大臣は,国会議員の中から国会で選ばれたり,国務大臣の過半数は国会議員から選ばれたりしていますね。
これらも図表1にまとめておきましたので確認をしておいてくださいね。
2.総辞職
それではここで,さきほど出てきました内閣の総辞職についてもう少し詳しく見ておきましょう。
まず,内閣は,「この内閣は存続しない方がいいんじゃないの?」と思われる場合は,いつでも総辞職できます。
ただ,さっき見たように,衆議院で内閣不信任決議が可決され,10日以内に衆議院が解散されない場合は,必ず総辞職しなければなりませんし,
また,内閣総理大臣が死亡したり辞職するなどで欠けた場合も,必ず総辞職しなければなりませんし,
さらに,衆議院議員総選挙のあと,初めて国会の召集があった場合も,必ず総辞職しなければなりません。
この場合,「衆」議院議員の総選挙ですからね。「参」議院議員の選挙ではありませんので,ご注意くださいね。。
そして,衆議院議員の「総選挙」ですからね。つまり,解散総選挙も,任期満了後の総選挙も,どちらも含みますからご注意くださいね。
では次の2つの条文を確認してみてください。
第69条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。第70条
内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。そして,総辞職した内閣は,あらたに内閣総理大臣が任命されるまで,引き続きその職務を行います。 行政のトップが不在になるのを防ぐためですね。
第71条
前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。
注意しておきたいことは,総辞職した内閣が引き続き職務を行うのは「内閣総理大臣が任命されるまで」であって,「内閣総理大臣が指名されるまで」ではなく,「あらたに次の内閣が発足するまで」でもないという点です。
次に図表にしておきましたので,ご確認ください。
【図表2:総辞職後の内閣】
3.内閣の権能
それでは次に,日本国憲法で定められた内閣の権能についてみていきましょう。
後に見ます「内閣総理大臣」の権能とは,区別して憶えておく必要がありますので,注意しながら見ていってくださいね。
では,次の条文を見てください。
第73条
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
このように,73条で定められています。
この中で,試験対策として重要なものをピックアップして説明しますね。
まず,3号の「条約を締結すること」。外国と条約を結ぶのは,国会ではなくて内閣です。
国会は,内閣が結ぶ条約を,承認するのが役目です。
次に5号の「予算を作成して国会に提出すること」。予算の作成は,内閣の権能です。財務大臣ではありません。
そして,6号の「政令を制定すること」。内閣が作るルールを政令といいます。
最後に,「大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること」。
「大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権」は,まとめて恩赦といいますが,恩赦とは,犯罪者に対する刑罰を消滅させたり軽くしたりする制度のことで,内閣が決定します。
ちなみに,天皇の国事行為を定めた7条を見てください。
第7条第6号
大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
このように,恩赦の決定は内閣の権能で,決定された恩赦を認証するのが天皇の国事行為です。
混乱しないよう,頭の中を整理しておきましょう。
あと,73条以外で定められている内閣の権能としては,
・天皇の国事行為に対する助言と承認(3条,7条)
・最高裁判所長官の指名(6条2項)
・その他の裁判官の任命(79条1項,80条1項)
・国会の臨時会の召集決定(53条)
・予備費の支出(87条)
・決算審査および財政状況の報告(90条1項,91条)
などがあります。
今までに見たものもありますし,まだ説明していないものもありますね。
まだ学んでいないものについては,今後説明しているときに出てきたら,
「ああ,これも内閣の権能だな」
と確認をしていただけたらと思います。
4.内閣総理大臣の権能
それでは次に,内閣総理大臣の権能についてお話しますね。
内閣総理大臣の権能として,日本国憲法では,
・国務大臣を任免すること(68条)
・内閣を代表して議案を国会に提出すること(72条)
・一般国務および外交関係について国会に報告すること(72条)
・行政各部を指揮監督すること(72条)
・法律や政令に連署すること(74条)
・国務大臣の訴追に対して同意をすること(75条)
があげられます。
それでは,条文を確認しておきましょう。
第68条
第1項:内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。第2項:内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
第72条
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。第74条
法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。主任の国務大臣とは,行政事務を分担管理する各省庁の大臣のことで,以前,行政大臣ともいうことを学びましたね。財務大臣とか,法務大臣のことです。
そして,法律や政令が成立したり改正したりすると,その法律や政令に関係する大臣が署名し,内閣総理大臣がその署名に連ねて署名します。
例として,次の図表1でイメージを作ってみてください。
【図表3:法令の署名・連署】
もし,その法律や政令が複数の省庁に関係する場合は,その大臣たちが署名した後,内閣総理大臣が連署します。
では,最後の条文です。
75条
国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
ここでいう訴追とは,検察官による公訴の提起(刑事裁判を始めること)だけでなく,逮捕などの身柄の拘束も含むと考えられています。
ですので,国務大臣は,その在任中は,逮捕されたり刑事裁判にかけられたりしないということを表しています。
ただし,内閣総理大臣の同意があれば,逮捕されたり刑事裁判にかけられたりします。
そして,これは「在任中」のことであって,国務大臣を辞めたあとなら訴追することも可能ですし,在任中でも,検察官や警察が証拠を集めることなら可能です。
これが,「訴追の権利は,害されない」の意味です。
あと,試験対策としては,72条の「行政各部を指揮監督すること」が,内閣の権能と勘違いしやすい点に注意しておきましょう。
これは,内閣総理大臣の権能ですので。
(終わり)
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