民法の全体像「占有権」
ここは、民法の全体像「占有権」を講義している教室です。
今回は,民法が定める物権の中で,一風変わった物権である占有権についてお話しますね。
例えば,BさんはAさんから自転車を借りていましたが,その自転車が泥棒Xに盗まれてしまいました。あなたがBさんならどう言います?
「こら,X! その盗んだ自転車を返せ!」
と、まあ,こんな感じで言いますかね。
ところが,泥棒Xは,次のように反論してきました。
「この自転車はBの物ではないでしょ。自分の物でないのに,『返せ』と言うのはおかしい。だからオレはこの自転車を返さないよ」
ん~,こやつ,なかなかの理屈こきですね~
でも,民法では,このような事態に備えて,占有権という権利を認めています。
この占有権とは,自分の物であろうがなかろうが,自分が利用するために物を自分の支配下に置いているときに,その物を支配することが認められる権利です。
だから,その物の支配が侵されると,「物の支配を侵害するな!」と言える権利が認められるんです。
さっきの例でしたら,BさんはAの自転車を自分の支配下に置いて利用していましたね。
だからBさんには,自転車の所有権は無いけれど,自転車の占有権は認められるんです。
ですので,Bさんは,その占有権を泥棒Xに侵害されたので,
「私の占有権を侵害するな!その自転車を返せ!」と言えるのです。
【図表1:占有権(1)】
「ねえねえ、クマべえ先生」
「はいはい、なんでしょう?」
「BさんはAさんから自転車を借りているんですよね?」
「はい、そういう設定ですね。」
「じゃあ、例えばそれが使用貸借として、Bさんは泥棒のXに『使用貸借を侵害するな!返せ!』と言えば良いんじゃないですか?」
なかなか重要なところに注目しましたね(^^)
この場合、Bさんは泥棒のXに「使用貸借を侵害するな!返せ!」とは言えないんです。なぜだか分かりますか?
それは、契約は契約当事者のみを拘束するんです。つまり、AさんとBさんの使用貸借契約は、AさんとBさんが守らなければいけませんが、その内容をAB以外の人に押し付けることができないんです。これを、債権の相対性といいます。
だから、使用貸借契約の当事者ではないXに、「使用貸借を侵害するな!」とは言えないんですね。
それに対して物権は原則だれに対しても主張できるんです。これを物権の絶対性といいます。
占有権は物権の1つですね。だから、Bさんは泥棒のXに「占有権を侵害するな!」と言えるんですね。
【図表2:物権と債権】
ちなみに、自分の物にも占有権があるんですよ。
例えば、Aさんは、自分のデジカメについて、所有権も持っていますし、占有権も持っているんです。だから、デジカメを盗まれたら、「所有権を侵害するな!返せ!」とも言えますし、「占有権を侵害するな!返せ!」とも言えるんです。
さて、ここまでの話だと,占有権って常識にかなった権利だなあって思われるでしょう?
でも、次のような場合を考えてみてください。
例えば,泥棒Xは,盗んだ自転車を別の泥棒Yに盗まれたとします。
この場合,泥棒Xは,泥棒Yに「その自転車を返せ!」と言えるでしょうか?
Yが理屈こきなら,「盗んだ自転車を返せっていう権利なんか,泥棒のお前には無い!」
と言い返されそうですよね。
でもね、なんと!この場合,泥棒Xは,盗んだ自転車を利用しようとして支配していますから,占有権を持つんです。
だから,その占有権に基づいて,Yに「自転車を返せ!」と言えるんです。
ね、なんか,変な感じがするでしょ?
自分の所有物でもなく,借りた物でもないんですよ。盗んだ物に占有権が認められるって。占有権が,一風変わった物権と思われるところですね。
【図表3:占有権(2)】
以上が占有権についてです。
さて,ここまでで,民法に定められている10種類の物権を見てきました。
物権の代表格の所有権,
他人の物を利用する物権である用益物権として,地上権,永小作権,地役権,入会権,
債権の担保としての役割を持つ物権である担保物権として,留置権,先取特権,質権,抵当権,
用益物権としては地上権を,担保物権としては抵当権を代表して学びましたね。
そして,今回学んだ占有権です。
これら民法の物権の全体を大まかに掴んでおきましょう。
【図表4:物権の全体像】
(終わり)
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