民法の全体像「労務型契約」
ここは、民法の全体像「労務型契約」を講義している教室です。
今回は,労務を提供するタイプの契約についてお話しますね。
1.雇用契約
雇用契約とは,企業に就職するときに結ぶ契約で,労働力を提供する側(労働者といいます)が労働力を提供し,企業側(使用者といいます)が労務の提供に対して賃金を支払うという内容の契約のことをいいます。
民法では,次のように定めています。
623条
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。なんとなく意味は分かると思います。
この雇用契約の特徴は,労働者の労働力を,使用者の支配下におく点です。これが,他の労務提供型の契約との違いになりますので,理解しておいてください。
【図表1:雇用契約】
なお,現在ではこの雇用契約は,労働基準法などの特別法により,大きく修正を受けています。
2.請負契約
例えば,Aさんはマイホームを建てようと,大工さんのBさんに1000万円で家を建ててもらう契約を結んだとします。Aさんが注文者で,Bさんが請負人ですね。
このような契約が請負契約です。
この請負契約のポイントとしては,次の2点が挙げられます。
・請負人のBさんは,注文者のAさんの支配下に入ることなく,独立して仕事をするという点。
これは,さっきの雇用契約との違いになります。
・請負人のBさんは,請け負った「仕事を完成する」ことが契約の内容である点。
これは,次に見る委任契約との違いになります。
では,次の条文を見てください。
632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。ね,「仕事を完成する」って書いているでしょ。
【図表2:請負契約】
3.委任契約
例えば,Aさんは,行政書士のBさんに遺言書の作成を依頼したとします。このときに結ぶ契約が,委任契約です。ちなみに,Aさんを委任者,Bさんを受任者と呼びます。
この委任契約の特徴は,次の2点です。
・受任者のBさんは,委任者のAさんの支配下に入ることなく,独立して仕事をするという点。
これは,さっきの雇用契約との違いで,請負契約とは同じ点になります。
・受任者のBさんは,「仕事をする」ことが契約の内容であって,「仕事を完成する」ことが契約の内容ではない点。
これは,さっきの請負契約との違いになります。
ただ,この仕事を「完成する」とかどうとかの部分が,理解しにくいと思いますが,今はまだ触れないでおきますね。学習が進んで,請負と委任の異なる点をいろいろ学ぶと,この「完成する」の意味が分かってきますので。
それでは,民法の条文を見てみましょう。
643条
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。ここで,「法律行為をすること」とありますが,法律行為ではないことをする場合は準委任と呼ばれ,それも委任契約として扱いますので,それほど気にする必要はありません。広く,仕事を依頼する契約だというイメージがあればオッケーです。
【図表3:委任契約】
4.寄託契約
寄託契約は,さっき見た3つの契約とは異なり,「物を預かって保管する」という限られた内容の特殊な契約です。
例えば,Aさんの手荷物を,一時的にBさんに預けるような契約のことをいいます。このとき,物を預けるAさんを寄託者,物を預かってあげるBさんを受寄者といいます。
【図表4:寄託契約】
そして,民法では,次のように定められています。
657条
寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。預かって保管をすることが,寄託契約のポイントですね。
(終わり)
→次の民法の全体像「特殊型契約」に進む
←前の民法の全体像「利用型契約」に戻る
☆入門講義「民法」の目次に戻る
☆入門講義の目次に戻る