民法の全体像「利用型契約」
ここは、民法の全体像「利用型契約」を講義している教室です。
今回は,他人の物を利用するタイプの契約についてお話しますね。
1.賃貸借契約
3つの利用型契約のうち,この賃貸借契約が一番馴染みがあるかも知れませんね。賃貸マンションを借りるときのような契約のことです。
民法では,次のように定められています。
601条
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。例えば,Aさんが持っている建物を,Bさんに貸して使用させ,Bさんがこれに対して賃料を支払うという内容の契約が,賃貸借契約です。
【図表1:賃貸借契約】
この賃貸借契約のポイントは,
・賃料を支払うこと
・借りた物その物を返すこと
の2点です。
これが,他の利用型契約との違いになりますので,理解しておいてください。
2.使用貸借契約
使用貸借契約は,賃貸借契約と違って馴染みがないように思えるかも知れませんが,「使用貸借」という言葉を使わないだけで,むしろこっちの方が頻繁に利用していると思いますよ。
使用貸借契約は,端的に言えば,賃貸借契約の,賃料を支払わないバージョン,みたいなイメージです。
つまり,タダで物を貸す契約のことです。
例えば,六法を友だちに貸したとか,デジカメを妹に貸したとか。
ね,思い起こせば,しょっちゅうしているでしょ。
では,民法の条文を確認しておきますね。
593条
使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。条文にも「無償で」とありますよね。タダで貸してあげる契約が,使用貸借契約です。
もちろん,動産に限らず,不動産でもオッケーです。
例えば,父が住宅を2軒持っていて,そのうち1軒を息子にタダで貸す,みたいなのも使用貸借契約です。
【図表2:使用貸借契約】
この使用貸借契約のポイントは,
・無償であること
・借りた物その物を返すこと
の2点です。
これが,他の利用型契約との違いになります。
3.消費貸借契約
最後に,消費貸借契約です。
これも,ふだん「消費貸借」という言葉を使っていないだけで,よく見かける契約です。
一番よく見かける例は,お金の貸し借りの契約が,消費貸借契約の具体例です。利子をつけるかつけないかは関係ありません。
では,民法の条文を確認してみましょう。
587条
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
この消費貸借契約の特徴は,
・借りた物を使って消費してしまう
・だから,借りた物そのものを返すのではなく,種類・品質・数量の同じ物を返す
の2点にあります。
例えば,BさんがAさんから1万円を借りたとします。
するとBさんは,借りた1万円を使って消費します。
ということは,Aさんに1万円を返すとき,お札番号△△番の,Aさんから借りた1万円札そのものを返すことができませんね。そのお札は使ってしまったんですから。
だから,アルバイトをしてもらった給料の中から、借りたお札とは別の1万円札で、Aさんに返すんです。
1万円札だと,「種類・品質・数量の同じ物」の意味が理解しにくいかも知れませんので,例を変えて,お米の貸し借りで見てみましょう。
今はあまりしないと思いますが,私が子どもの頃は,よくご近所さんの主婦同士で
「ごめ~ん,お米切らしてたから,ちょっと3合貸してくれへん?」
なんてことがよく行われていました。
このとき,借りたお米は食べてしまいますよね。ということは,借りたお米そのものを返すことはできません。
だから,同じ種類で,同じ品質で,借りた数量分を返すんです。
例えば,新潟産コシヒカリの標準品質を1kg借りたのなら,新潟産コシヒカリの標準品質を1kgを返すんです。
種類:新潟産コシヒカリ
品質:標準
数量:1kg
ですね。
このような内容の契約が,消費貸借契約というんです。借りた物を消費しますから、そう呼ばれるんですね。
【図表3:消費貸借契約】
以上が,他人の物を利用するタイプの契約でした。3つの違いに注目しながら,イメージをつくっておいてくださいね。
(終わり)
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