行政法「行政事件訴訟法(3)『訴訟要件,執行停止制度』」
ここは、行政法「行政事件訴訟法(3)『訴訟要件,執行停止制度』」を講義している教室です。
1.訴訟要件
訴訟要件とは、訴えを起こすときに必要とされる条件のことです。
裁判所の運営も私たちが支払った税金を使って行われていますので、無駄だと思われる訴えに関わっていられないですし、無駄だと思われる訴えが多すぎて、裁判手続きがどうしても必要な人の訴えが受け付けてもらえないというのも問題です。
そこで、裁判所に訴えを取り上げてもらうための要件を設定しておき、この要件を満たさない訴えは却下判決(いわゆる門前払い判決)を下すことにしています。
それではその訴訟要件を1つずつ見ていきましょう。
(1)行政不服申し立てとの関係
行政の処分に不満があり、文句を言いたいのですが、行政不服申し立ても行政事件訴訟も起こすことが出来るとき、どうすればよいでしょうか?
これは、自由に選択出来るのが原則です。不服申し立てを先に行っても良いし、訴訟を先に行っても良いし、はたまた両方を同時に行っても良いのです。これを自由選択主義といいます。
しかし、例外的に、各個別の法律で、先に行政不服申し立てを行い、後で行政事件訴訟を行うように定められている場合があります。
この場合は、先に行政不服申し立てをしなければなりません。これを不服申立前置主義といいます。
現実には、不服申立前置主義が採られている法律が多くあります。
ですのでその場合は、行政不服申し立てをせずに訴えを起こすと、却下判決をくらってしまいます。
(2)原告適格
次に原告適格についてです。
原告適格とは、
「あなたは本当に訴えを起こす資格があるの?」
ということです。
例えば、次の図表1を見てください。
【図表1:原告適格】
行政庁Aが一般の人Bに処分をしました。
Bさんはこの処分は違法だから取り消して欲しいと思っていますが、訴えを起こそうとしません。
そこで代わりに、友人のCさんが訴えを起こすことができるか?
ということです。
これについて、行政事件訴訟法9条1項で、取消しを求めるにつき、「法律上の利益が有する者」に限り訴えを起こすことができると定められています。
この「法律上の利益」の解釈については、多くの判例がありますので、学習が進んだら、一度判例集にあたると良いでしょう。
そしてこの例の場合、Bには法律上の利益はあるけれど、Cにはないとされ、だからBの代わりにCが訴えを起こしても、却下判決が下されます。
(3)被告適格
被告適格とは、誰を訴えの相手方にするか?ということです。
図表1の例で、もしBが訴えを起こすなら、誰を訴えるのか、ということです。
「そんなの、行政庁Aに決まってるじゃん」
と思われるかも知れませんが、これがなかなかややこしいものでして。
まず、原則は、その処分を行った行政庁が所属する国または公共団体を被告とすることになっています。
図表1の例で、行政庁Aが東京都知事なら、A知事を被告とするのではなく、東京都を被告として訴えるのです。
ただ例外的に、行政庁Aが国または公共団体に所属しない場合などでは、行政庁Aを被告とします。
(4)出訴期間
行政不服申し立てにも、不服申立期間があったように、取消訴訟にも期間が定められています。
これを出訴期間といい、処分があったことを知った日から6ヵ月以内に訴えを提起しなければならないとされています。
2.執行不停止の原則
次に、執行不停止の原則についてです。
これについては、以前行政不服申し立てで学んだ通りで、原則、行政庁の処分やそれに続く手続きはストップせず、例外的な場合にストップすることが認められるのでした。
取消訴訟でも同じなのですが、執行停止を認める条件が、行政不服申し立ての場合よりも厳しくなっています。
これは、行政不服申し立てでは、執行停止を認めるかどうかを判断するのは、処分庁と同じ行政側の人間です。
それに対して取消訴訟の場合、執行停止するかの判断は裁判所が行うので、むやみに行政の活動に口出ししない方が良いとの考えからきているものと思われます。
しかも、取消訴訟では、内閣総理大臣の異議という制度もあります。
次の図表2を見てください。
【図表2:内閣総理大臣の異議】
裁判所が執行停止しようかなと考えているとき、内閣総理大臣が
「執行停止するな!」
と異議を述べると、裁判所は執行停止出来なくなります。
また、裁判所が執行停止した後に、内閣総理大臣が
「その執行停止を取り消せ!」
と異議を述べると、裁判所は執行停止を取り消さなくてはなりません。
これが内閣総理大臣の異議という制度です。
ところで、この制度、なんかコワいと思いません?
行政のトップが、裁判所の判断に影響を与えられるんですよ。
三権分立がユルんでいるような気がして。。。
(終わり)
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