クマべえの生涯学習大学校

行政法「行政事件訴訟法(2)『抗告訴訟』」

ここは、行政法「行政事件訴訟法(2)『抗告訴訟』」を講義している教室です。
今回は,抗告訴訟ついて,もう少し詳しく見ていきますね。


1.抗告訴訟の類型

抗告訴訟について、行政事件訴訟法では、処分の取消しの訴え裁決の取消しの訴え無効等確認の訴え不作為の違法確認の訴え義務付けの訴え差止めの訴え、の6つの種類について定めています。
今から、これらを1つずつ説明していきますね。


(1)処分の取消しの訴え

処分の取消しの訴えとは、行政庁が行った処分に不満がある場合に
「この処分を取り消して!」
と訴えを起こすものです。
そして、訴えが認められると、その処分が取り消されます。

このとき、裁判所が処分を取り消すのであって、裁判所が行政庁に「取り消しなさい」と命じて、そして行政庁が取り消す、というものではない、という点にご注意ください。
では、次の図表1でイメージを確認してみてください。

【図表1:処分の取消しの訴え】

処分の取消しの訴え

さて、この処分の取消しの訴えで問題なのは、処分とは何か?ということです。
これについて、従来、判例では、行政の活動のうち、一般の人に対する公定力を持つ公権力の行使、というような解釈がなされていました。
つまり、処分とは、行政行為とほぼ同じ意味で捉えられてきました。

もちろん現在でも、それは間違いじゃないのですが、新しい判例で、行政行為ではない行政活動についても処分に含めて、一般の人を救済しようとするものがあらわれました。
例えば、行政指導でも、実質的に権力の行使にあたるものは処分である、としたものがあります。

ですので、処分という語は、ほぼ行政行為と同じだけど、行政行為よりも範囲が広いというイメージを持っておくと良いでしょう。


(2)裁決の取消しの訴え

裁決の取消しの訴えとは、行政庁(審査庁)が行った裁決を
「この裁決を取消して!」
と訴えを起こすものです。
次の図表2でイメージを確認してみてください。

【図表2:裁決の取消しの訴え】

裁決の取消しの訴え

以上、処分の取消しの訴えと、裁決の取消しの訴えを見てきましたが、この2つを合わせて取消訴訟と呼びます。
抗告訴訟の中でも、取消訴訟が中心的な位置を占めていますので、しっかりとイメージを作っておきましょう。


(3)無効等確認の訴え

以前、行政行為には公定力があるけれど、その行政行為に重大かつ明白な瑕疵[かし]があるときは公定力はなく、取り消し手続きをしなくても、はなから無効なので従う必要はない、とお話しました。
言い換えると,無効な処分を「取り消して!」とは言えないということです。ですので、処分が無効であることを「確認」する訴えになります。

例えば、自動車を買っていないBさんに、行政庁Aから「自動車の税金を払え!」という通知がきたとします。
こんなときに、Bさんが裁判所に「この課税処分は無効ですよね?」と確認をするのです。
このような訴えを無効等確認の訴えといいます。

「ねえねえクマべえ先生」

「はいはい何でしょう」

「無効な行政行為って従う必要はないんですよね?」

「その通りですよ」

「じゃあ裁判する必要はないと思うんですけど」

そうですよね。その通りです。
無効等確認の訴えは、例えば自動車の運転免許の取消し処分が行われたけれどその処分が無効な場合,別に運転をしても良いけれど,無効を確認しておかないと無免許運転と間違われてしまう,というような限られた場面でないと訴えを起こすことはできないんです。 行政事件訴訟法の36条でも、無効等確認の訴え以外の訴訟で解決するなら,無効等確認の訴え以外で争うように定めています。
次の図表3を見てください。

【図表3:無効等確認の訴え】

無効等確認の訴え

例えば、自動車を買っていないBさんに、行政庁Aから「自動車の税金1万円を払え!」という通知がきました。
真面目なBさんは、1万円を支払ったけど、支払う必要がないことに気付き、Aから1万円を返してもらいたいと考えています。
この場合、無効等確認の訴えを起こして課税処分が無効であることを確認し、そしてそれに基づき民事訴訟を起こして1万円の返還請求をする、なんて面倒くさいことをせずに、
いきなり民事訴訟を起こして、ダイレクトに「支払った税金1万円を返せ」と主張すればいいのです。
言い換えると、この例の場合なら、無効等確認の訴えは出来ない、ということです。


(4)不作為の違法確認の訴え

次に、不作為の違法確認の訴えです。
次の図表4を見てください。

【図表4:不作為の違法確認の訴え】

不作為の違法確認の訴え

例えば、Bさんが喫茶店を営業しようと、行政庁Aに「営業許可をください」と申請しました。
でも、いつまで待っても許可するとも許可しないとも言ってきません。
つまり、無反応なわけです。このような状態を不作為といいます。

そこでBさんは、裁判所に
「Aの不作為は違法ですよね?」
と、確認を求めて訴えを起こしました。
このような訴えを、不作為の違法確認の訴えというのです。

ここで、注意しておかなければならないのは、この訴えは不作為が違法であることを確認するだけで、それ以上のことが求められないのです。

先ほどの図表2の例でしたら、
「違法ですよね?」
と求めることは出来ても
「早く許可するよう、裁判所から行政庁Aに命令してください」
とは言えないんです。

これは、許可するとかしないとかは、行政の権限で行うもので、司法がむやみに介入するのは、三権分立に反する、との考えからきているのだと思われますが、

でも,これじゃあ一般の人の権利利益が、ちゃんと保護されるとはいい難いですよね。
そこで、平成16年に行政事件訴訟法が改正され、新たに「義務付けの訴え」と「差止めの訴え」という訴えができるようになりました。
それでは,これらについて見ていきましょう。


(5)義務付けの訴え

さっき学んだ不作為の違法確認の訴えは、あまり効果が期待できないのでした。
それに対して義務付けの訴えは、積極的に
「裁判所が行政庁Aに、許可処分をするよう命令して!」
と訴えるものです。
次の図表5を確認してください。

【図表5:義務付けの訴え】

義務付けの訴え

さて、この義務付けの訴えは、許可などの申請をしたのに行政庁が何もしてくれないときに起こすだけでなく、申請を前提としない場合にも訴えを起こすことができます。
仮に、申請を前提とするのを申請型、前提としないのを非申請型と名付けておきますね。
次の図表6を見てください。

【図表6:非申請型の義務付けの訴え】

非申請型の義務付けの訴え

非申請型とは、例えば、Bさんの隣にCさんが住んでいるのですが、このCさんの建物が違法建築で、こっちに倒れてきそうで非常に危ないとします。
でも、行政庁は、Cさんに「その建物は違法だ!壊しなさい!」と命令しません。
このとき、Bさんは、裁判所に
「裁判所から行政庁に、建物を壊す命令をしろと、命令して!」
と訴えることができます。
このような訴えが非申請型の義務付けの訴えというのですが,このような訴えも出来るのです。


(6)差止めの訴え

それでは,次の図表7を見てください。

【図表7:非申請型の義務付けの訴え】

非申請型の義務付けの訴え

Bさんは、念願のマイホームを建てました。
ところが、行政庁Aから
「その建物は違法なので壊した方が良いですよ」
と、行政指導が入ってしまいました。

Bさんとしては、違法とは思われないので壊したくないのですが、かといって行政指導は処分じゃないので,原則的に取消訴訟はできません。
それじゃあ、行政庁Aから取り壊し命令されるのを待ってから取消訴訟をする、というのもイヤです。処分がされると、執行不停止の原則があるので、のんびり裁判してられなくなりますし。

そこで、Bさんは、
「裁判所から行政庁Aに、取り壊し命令をしないように命令して!」
と訴えました。

このように、行政庁がその処分をしてはならないという命令を裁判所に求める訴えを、差止めの訴えといいます。


以上,抗告訴訟について見てきました。類型が6つもあるので,頭の中の知識をしっかりと整理しておいてくださいね。


(終わり)

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