行政法「行政事件訴訟法(1)『訴訟類型』」
ここは、行政法「行政事件訴訟法(1)『訴訟類型』」を講義している教室です。
今回から,行政事件訴訟法ついてお話していきますね。
前回までお話していた行政不服申し立ては、行政の活動に文句があるとき、行政に文句を言う制度でした。
これに対して行政事件訴訟は、裁判所に文句を聞いてもらう制度です。
ちなみに、明治憲法の時代では、行政裁判所という特別な裁判所が、行政事件について専門的に扱っていました。
しかし、現在の日本国憲法では、特別裁判所の設置は認められていないため、行政裁判所は存在しません。
だから、地方裁判所や高等裁判所など、通常の裁判所が取り扱っています。
その手続きについても、行政事件特有のものについては行政事件訴訟法という法律に定められていますが、それ以外は民事訴訟法の定めにしたがって行われます。
ですので,行政事件訴訟法をちゃんと理解したい方は,一度民事訴訟法の入門書などに目を通して見るのも良いと思います。基礎法学の勉強にもなりますしね。
1.訴訟類型
では、行政事件訴訟法の内容を見ていきます。
まず,行政事件訴訟法では、どのような訴えができると定めているのか,これを訴訟類型といいますが,それを見ていきましょう。
行政事件訴訟は、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟、機関訴訟の4つに分類されます。
このうち、抗告訴訟と当事者訴訟をまとめて主観訴訟といい、民衆訴訟と機関訴訟をまとめて客観訴訟といいます。
次の図表1でまとめておきましょう。
【図表1:訴訟類型】
では、これら4つについて、1つずつ見ていきましょう。
(1)抗告訴訟
まずは抗告訴訟からです。
抗告訴訟とは、行政事件訴訟法3条1項で「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」と定められています。
つまり、行政行為のような権力的な行政活動に不満がある場合にする訴えのことをいいます。
次の図表2でイメージを作っておいてください。
【図表2:抗告訴訟】
(2)当事者訴訟
次に当事者訴訟についてです。
当事者訴訟とは、抗告訴訟とは異なり、行政と一般の人が、対等の立場の当事者として争う訴えのことをいいます。
言い換えると、「公権力の行使」ではない行政の活動に不満がある場合に起こす訴え、ということができるでしょう。
次の図表3でイメージを作っておいてください。
【図表3:当事者訴訟】
(3)民衆訴訟
例えば、行政が、必要もないのに市役所を建てようとしました。
それを,Bさんは,「税金の無駄遣いだ!けしからん!」と訴えたいとします。
でも,これは、
「Bさん!あなたに市役所の建設を命ずる!」
と権力を使ってきたわけではないので、抗告訴訟ではないですね。
かといって、行政とBさんが対等の立場で
「市役所を作るのでBさんがお金を出して♪」
という話しになったわけでもないので、当事者訴訟でもありません。
つまり、市役所の建設は、Bさんにとって、直接的に関係する行政活動ではない、ということです。
新しい市役所が出来たって、Bさんには特に関係ないでしょ?
建設費用をBさんが負担するわけじゃないし,その市役所に住めるようになるわけじゃないし。。。
ところで、抗告訴訟と当事者訴訟は、Bさんにとって直接的に関係する行政活動について訴えを起こすものでした。
Bさんにとって直接的に関係する、という意味で、これら2つの訴えを主観訴訟というのです。
これに対して民衆訴訟は(機関訴訟も)、Bさんにとって直接的に関係があるわけではないけれど、
「税金の無駄使いは許せん!」
と訴えを起こすものです。
訴えを起こすBさんには直接的な関係はない、という意味で、民衆訴訟(と機関訴訟)のことを、客観訴訟と呼んでいるのです。
ちなみに、本来、訴えは、直接的な利害関係がないと起こせないものなんです。
しかし行政事件訴訟法では、例外的に民衆訴訟と機関訴訟を認めているのです。
では、次の図表4でイメージを作っておいてください。
【図表4:民衆訴訟】
(4)機関訴訟
最後に機関訴訟についてです。
機関訴訟とは、行政内部での争いについての訴えのことをいいます。
例えば、国土交通大臣Pが、Q県知事に対しいろいろ口出しをしたとします。
このとき、Q知事が
「Pさん!あなたにそんな権限はないでしょ!」
と裁判所に訴えるようなものをいいます。
これも、一般の人には直接関係がない訴えなので、客観訴訟です。
では、次の図表5でイメージを作っておいてください。
【図表5:機関訴訟】
以上、行政事件訴訟の4つの類型を見てきました。
このうち、行政書士試験や公務員試験での出題学習の中心は抗告訴訟です。
次回、抗告訴訟について、もう少し詳しく見ていきますので、しっかりとイメージを作っておきましょう。
(終わり)
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