行政法「行政不服申立て(1)『全体像』」
ここは、行政法「行政不服申立て(1)『行政不服申立て制度の全体像』」を講義している教室です。
今回は,行政救済法の4つの制度のうちの1つ,行政不服申立ての制度について,見ていきますね。
1.行政不服申立てとは
例えば,行政庁Aと一般の人Bがもめているとします。
この場合,1つは,行政庁Aの上司である行政庁Xに間に入ってもらい解決してもらう方法と,
もう1つは,裁判所に間に入ってもらい解決してもらう方法とが考えられます。
この,解決に導く人が,裁判所ではなく行政の人が行うものを,行政不服申立てといいます。
次の図表を見て,理解をしておいてください。
【図表1:行政不服申立てのイメージ】
でも,行政庁Xって,Aの上司でしょ?
Bがいくら「Aの行政行為は間違っている!」と主張しても,Xが
「ん~かわいい部下のAをかばってあげよう」
なんて思っていたら,公正な判断は期待できないですよね。
じゃあ,行政不服申立てを行うメリットが無いような気がしそうですね。
でも,もちろん,Bの権利利益の保護は,裁判所の方が重厚に扱ってくれそうですが,行政の人に良い悪いを判断してもらうメリットも大きいんです。
そのメリットとしてはいくつかありますが,何といっても簡易・迅速に救済手続きができること。
裁判所は,慎重にじっくりと判断してくれますが,手続きは難しく,判決が確定するまでに何年もかかったりします。
それに対して行政不服申立ては,簡易な手続きで,迅速に判断が下されます。
費用も安く済みますしね。
そして,判断をするのも行政の人なので,裁判所では扱えない問題も扱ってくれます。
裁判所は,別名「法の番人」というくらいですから,違法かどうかだけを審査します。
それに対して行政不服申立てでは,違法かどうかだけでなく,不当かどうかも判断してくれます。
不当といいますのは,違法ではないけど裁量に問題がある場合のことで,「それはナイわ~」と言いたくなるような行政活動のことです。
あとは,最近の行政活動は,専門知識が必要なものが数多くあるわけで(一般知識で学びますよね。行政国家やらテクノクラートやら),それを,行政の専門家である行政自らが,良いか悪いかを判断してくれる,というのもメリットですね。
裁判所は,法律の専門家であって,行政の専門家ではないので,判決するのに行政の専門知識が必要な場合,大変な手続きが必要であったり,判決が下されるまでの期間が長くなったりする可能性がありますから。
このように,行政不服申立ての制度にも,多くのメリットがあるんです。
2.不服申し立ての種類
では次に,不服申し立ての種類について説明しますね。
行政不服審査法では,不服申し立ての種類として,異議申立て,審査請求,再審査請求の3つを定めています。
これを,再審査請求は審査請求の特殊版ととらえて,2種類ある,ということもできます。
それでは,これらを1つずつ見ていきましょう。
(1)異議申立て
では,次の図表1を見ながら,説明を読んでくださいね。
【図表2:異議申立てのイメージ】
例えば,行政庁Aが,一般の人Bに「あなたの建物は違法です。壊してください!」と行政行為を行った(①)とします。
ここで,以前,行政行為は講学上の用語で法律用語ではなく,法律用語としては処分という用語が使われるということを説明しましたね。
(何のこっちゃ?と思われた方は,行政行為の全体像を復習してみてくださいね)
つまりこの場合,行政庁AがBさんに建物の除去処分を行った,ということです。このとき,処分を行った行政庁を処分庁といいます。
これに対し,Bさんが「建物は違法じゃないぞ!その処分は間違っている」と,処分庁(行政庁A)本人に文句を言う(②)とします。
「Aさん!もう一度よく考えてよ!」と,本人に文句を言っているわけです。
ちなみに,文句を言うことを,カッコよく(?!)「不服申し立て」というんです。
このように,処分庁本人に対し文句を言う手続きを,異議申立てというのです。
そして,この異議申立てに対する処分庁(異議申立てを受け付けたので,異議申立庁ともいう)の判断を,決定(③)といいます。
裁判所でいう判決みたいなものですね。
ちなみに,行政法では,いろんなところで,いろんな意味で「決定」という語が使われています。
だから,行政法を勉強しているときに「決定」という語を見たら,異議申立てに対する判断としての決定なのか,はたまた違う意味で使われている決定なのか,よく見極める必要がありますので,注意してくださいね。
(2)審査請求
次は審査請求です。次の図表3を見ながら説明を読んでみてください。
【図表3:審査請求のイメージ】
図のように,処分庁が一般の人に処分をしたとします(①)。
それに対して,処分庁以外の行政庁に,「処分は間違っている!」と文句(不服申し立て)を言います(②)。
このように,処分庁以外の行政庁に不服申し立てをすることを,審査請求というのです。
ちなみに,審査請求を受け付ける行政庁を,審査庁といいます。
ふつうは,処分庁の上司にあたる行政庁(これを上級庁といいます)が審査庁を務めますが,第三者的な行政庁が務めることもあります。
そして,この審査請求に対する審査庁の判断を,裁決(③)といいます。裁決という語も,行政法上いろんな意味で使われているので注意しておいてください。
3.再審査請求
最後に再審査請求です。次の図表3を見てください。
【図表4:再審査請求のイメージ】
審査請求が理解できれば,再審査請求は,「ああ,2回目の審査請求だな」ということが理解できますよね。
図のように,処分庁が処分しました(①)。
それに対して審査請求をしました(②)。
それに対して審査庁が裁決をしました(③)。
ここまでは審査請求です。
そして,それでも納得のいかない一般の人は,さらにもう一度,別の行政庁(再審査庁)に審査請求をします(④)。
これを再審査請求というのです。
そして,この再審査請求に対する再審査庁の判断を,裁決(⑤)といいます。審査請求と同じですね。
以上,不服申し立ての種類を説明してきました。
今後,深く学習を進める際の土台となりますので,しっかりと理解して憶えておいてくださいね。
(終わり)
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