行政法「行政行為の全体像」
ここは、行政法「行政行為の全体像」のを講義している教室です。
今回は、行政行為の全体像について、お話をしていきます。
1.行政行為の全体像
では、行政作用法の3つ目として、行政行為について学びましょう。
この行政行為は、行政作用法の中心分野です。
ですので、行政作用法の中で、一番勉強するのが大変な分野です。
難しい用語もたくさん出てきますけど、根気よく、じっくりと取り組んでくださいね!
(1)行政行為ってナニ?
まずは、行政行為のイメージを作っていきましょう。
次のたとえ話を想像してみてください。
ところがある日、見知らぬおじさんに、
「ちょっとアンタ、このビルは建築基準法に違反してますよ。すぐに壊しなさい。」
と叱られました。
あなたは、このビルを壊さなくてはならないでしょうか?
・・・・・想像してみましたか?
もし、このおじさんが、単なる通りすがりの酔っ払いだったとするとどうでしょうか?
当然あなたは、
「何言っているんだ、バカバカしい!」
と、聞き流してしまいますよね。
もちろん、ビルを壊すことなんてしないはずです。
ところが、このおじさんが、行政の人間で、正式の命令を伝えているんだとすると、どうでしょうか?
あなたは、
「えっ?ホントに壊さなくちゃいけないの?いやだよ!」
と、かなり焦ってしまいますよね。
このように、おじさんの立場によって、あなたの対応のしかたが変わってしまいます。
では、なぜ、おじさんが酔っ払いならば無視しても良くて、行政の人間ならば無視できないのでしょうか?
それは、酔っ払いのおじさんに「ビルを壊せ」と言われても、あなたにビルを壊す義務は発生しないからです。
ですので、あなたは酔っ払いのおじさんの言うことを無視しても良いんです。後日になって、
「ワシの言うことに従わなかったのは義務違反だ。罰金を払え!」
なんていうことにもなりません。
この酔っ払いのおじさんがあなたにした命令のように、私たち世間一般のある人の権利や義務に影響を与えない行いを、難しい言い方で事実行為といいます。憶えておきましょう。
それに対して、正式の権限を持った行政のおじさんに「ビルを壊せ」と言われると、あなたにビルを壊す義務が発生します。
ですので、あなたは行政のおじさんの言うことを無視してはいけないんです。もし無視すると、後日になって、
「ワシの言うことに従わなかったのは義務違反だ。罰金を払え!」
と言われ、あなたは罰金を払わなければならない恐れも出てきます。
この行政のおじさんの命令のように、私たち世間一般のある人の権利や義務に影響を与える行いを、難しい言い方で法行為(または法的行為)といいます。この用語も、事実行為と合わせて憶えておきましょう。
そして、行政のおじさんの命令が、あなたに義務を発生させたように、行政が世間一般のある人に、権力を使って一方的に「ビルを壊せ」などと具体的に命令をして義務を発生させたりする行為を、行政行為というのです。
下に図でまとめておきましたのでしっかりとイメージをつくっておきましょう。
【図表1:行政行為のイメージ】
(2)行政立法との違い
「ねえねえ、クマべ先生」
「はいはい、どうかしましたか?」
「前回、行政立法で、法規命令っていうのを勉強しましたよね?」
「そうですね。」
「その法規命令って、私たちの権利義務についてのルールでしたよね?」
「その通りです。よく憶えていますね。素晴らしい!」
「ということは、法規命令は、私たちの権利義務に影響を与えますよね?」
「はい、影響を与えますね。」
「今日学んだ行政行為も、私たちの権利義務に影響を与えるんですよね?」
「はい、影響を与えます。」
「じゃあ、行政立法、特に法規命令と行政行為って、同じじゃないんですか?」
あなたも、このような疑問を持たれませんでしたか?
行政立法の法規命令とは、私たち世間一般の人々の権利義務に、影響を与えるルールのことをいいました。
行政行為も、さっき学んだように、私たちの権利義務に影響を与えます。
では、法規命令と行政行為とでは、何が異なるのでしょうか?
それは、難しい言い方をすると、行政立法は一般的・抽象的な定めであるのに対し、行政行為は具体的な行政の活動である、という点でこの2つは異なるんです。
例をあげて説明しましょう。
例えば、「スピード違反をした者に対しては、免許を取り消す」という行政立法があったとします。
この定めって、「スピード違反をした者」に対して広く一般的に適用されますよね。
つまり、このルールが定められた時点で、スピード違反をした者はどこの誰か、ということは具体的には分かっていません。
このルールは、「スピード違反をしたならば、誰に対しても適用して免許を取り消すぞ!」と定められているわけです。
これに対して、「こら!クマべえ。お前はスピード違反しただろう。だから免許を取り消す!」と命令をしてくるのは、行政行為にあたります。
この命令って、「スピード違反をしたクマべえ」という具体的に特定した者に対して下されていますよね。
スピード違反をした者はクマべえだ、ということが具体的に分かっています。
このように、行政立法とは、特定された具体的なことがらに対するものではなく、一般的・抽象的に定めたものをいいます。
これに対して、行政行為とは、特定された具体的なことがらについての行政の行動のことをいうのです。
下の図で、イメージを確認しておきましょう。
【図表2:行政立法と行政行為との違い】
(3)行政行為という用語
ここまでで、行政行為のおおまかなイメージはつかめましたか?
行政って、私たちの生活関係では見られない、権力的なことをするんだなあ、と感じられたらo.k.です。
では、ここで、行政行為という用語について、1つお話ししておきますね。
それは、行政行為という用語は、法律用語ではない、ということです。
「えっ?じゃあ今まで、法律用語ではない用語を、一生懸命学んできたの?」
はい。実はそうなんです。
しかし、まったく無駄なことを学んできたわけじゃありません。非常に重要なことを学んできたので、安心してくださいね。
では、この行政行為という用語は何なのでしょうか?
それは、学者が学問研究するときに、必要があったので生み出した用語なんです。
これを、難しい言い方をすると、講学上の用語といいます。
行政行為という用語は、法律用語ではなく、講学上の用語だったのです。
では、行政行為みたいな行政の活動を、法律用語で何と呼ばれているのでしょうか?
それは、「処分」という用語がよく使われています。
ですので、特に行政救済法の分野では、法律の条文の知識を学びますから、「行政行為」ではなく、「処分」という用語がよく出てきます。
「処分」という用語が出てきた時は、「ああ、これは、行政行為とほぼ同じ意味なんだな」と思っていただいて大丈夫です。
(4)行政行為の種類
それでは、今回の講義の最後に、行政行為にもいろいろな種類がありますので、その代表的なものの例を見ておきましょう。
(a)下命
さきほど、行政行為の例として「違法な建物を壊せ!」と命令することを学びました。その他の例としては「税金を○○万円支払え」というものもあります。
このような行政行為を「下命」といいます。
つまり、「○○しなさい」と命令することを「下命」というのです。
ちなみに、「○○をする」ということを、難しい言い方に換えると「作為」と言います。
ですので、「下命」を難しく言い換えると、作為を義務づける、ということで作為義務ということができます。
この作為義務という用語は、イメージが沸きにくいので、ここでしっかりとイメージを持っておいてくださいね。
(b)禁止
では次にいきます。「自動車を無免許で運転するな!」と命令するような行政行為は「禁止」といいます。
つまり、「○○するな」と命令することを「禁止」というのです。
ちなみに、「○○をしない」ということを、難しい言い方に換えると不作為と言います。
ですので、「禁止」を難しく言い換えると、不作為を義務づける、ということで不作為義務ということができます。
この不作為義務という用語も、さっきの作為義務と合わせて、しっかりとイメージを持っておきましょう。
(c)許可
あと、そのほかには、「自動車を勝手に運転するのは禁止!でも免許を持っている人は自動車を運転してもよい」というように、「禁止」するのをやめてあげるような行政行為もあります。
これは、「許可」と呼ばれています。
つまり、「○○してもよい」と、禁止を解除することを「許可」というのです。
(d)免除
そしてさらには、「税金を払え(下命)!でも収入が少なかった人は税金を免除してあげる」というように、「下命」をやめてあげるような行政行為もあります。
これは、「免除」といいます。
つまり、「○○しなくてもよい」と、下命を解除することを「免除」というのです。
このように、けっこう身近なところでも、いろいろな行政行為が行われているんですよ。
「こういうのも行政行為なのかあ」と、具体的なイメージを持てると良いですね。
では、下の図表3で知識を整理しておきましょう。
【図表3:行政行為の種類】
さて、ここまで見てきた下命、禁止、許可、免除に共通する特徴は、少し難しい言い方かも知れませんが、すべて一般の人の行動をコントロールしようとする行政行為で、行動の結果に影響を与えないんです。
だから、例えばBさんが病院を開いて医療行為をするためには医師免許が必要で、免許がないと、たとえブラックジャックのような(古いですか?)優れた腕を持っていたとしても医療行為が出来ないんです。
つまり、医師免許を与えるかどうかで、Bの医療行為をするかどうかの行動をコントロールしているんですね。
そして、もしBが無免許でCさんに手術をしたとしても、「手術をした」という結果には影響を与えないので、
行政から「無免許で行った手術は無効だ!Cさんを手術前の病気の状態に戻せ!」とは言われないんです。
これが、「一般の人の行動をコントロールするが、結果に影響を与えない」と言った意味です。
この特徴を持つ行政行為をまとめて、命令的行為と呼び、先ほど見た下命、禁止、許可、免除がこれに当たります。
この命令的行為の特徴は、一見当たり前のように思えますが、これとは反対に、一般の人がした行動の結果に影響を与える行政行為もあります。
この「結果に影響を与える」行政行為を、命令的行為に対して、形成的行為と呼んでいます。
例えば、鉱業権の許可という制度があります。
鉱業権とは、地下に埋蔵されている金(おかねじゃなくてゴールドね)やダイアモンドや石油などを採掘する権利のことで、この権利は国が独占しています。
ですので、たとえあなたが所有している土地から石油が出ても、残念ながら即石油王になれるわけではありません。
で、鉱業を営みたい場合は、鉱業権の許可を受けなければなりません。
この鉱業権の許可の性質は、さっきの医師免許と違って、「勝手に鉱業するな!」と一般の人の行動をコントロールするものではなく、「興業を勝手に営んでも無効だ」と、行動の結果(有効か無効か)に影響を与えるんです。
だから、自分の土地で石油を掘り当てても、その石油は自分のものではないし、だからそれを売っても、その売買は無効だからお金を手に入れられないんです。
かなりややこしいところではありますが、「行動」をコントロールする行政行為もあれば、「結果」に影響を与える行政行為もあるんだな、ということが理解出来れば良しとしましょう。
ちなみに、鉱業権の許可のように、一般の人が持っていない権利を行政が設定してあげる行政行為を、行政法の専門用語(講学上の用語と言うのでしたね)で、特許といいます。
発明したときにとる特許とは違いますのでご注意ください。
では、ここまでを図表4にまとめておきますので、イメージをつくっておいてください。
【図表4:命令的行為と形成的行為】
(終わり)
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