行政法「行政救済法の全体像」
ここは、行政法「行政救済法の全体像」を講義している教室です。
行政書士試験ではもちろんのこと,公務員試験でも頻出の分野ですので,しっかりと基礎を固めていきましょう!
1.行政救済法の全体像
法律による行政の原理によって,行政の活動で一般の人に被害が出ないようにしているといっても,絶対大丈夫とも言い切れません。行政を運営しているのも人ですから,時には間違いをすることもあるでしょうし,そもそも,法律の通りに行政を運営していても,一般の人に被害が出る場合だってあるでしょう。
このような場合に備えて,一般の人に被害が発生したときの救済方法を定めたのが,行政救済法の分野です。
(1)行政争訟法と国家補償法
では,どのように被害を受けた一般の人を救済すればよいでしょうか?
例えば,ある学校で
「期末テストで80点以下の人は,夏休みに1週間補習を受けること!」
と先生が言っていたとします。
これに対して,Aさんは,75点だったので,補習を受けることになりました。
さて,補習を受けて3日目,Aさんのテストに採点ミスが見つかり,本当は85点でした。
つまり,補習を受ける必要がなかったんですね。
この場合,Aさんを救済するために,どういう方法があると思いますか?
まず,1つは,「補習を受けなさい」命令を取り消してあげたら良いですね。
すると,Aさんは,残りの4日間は補習を受けずに済みます。
そして,もう1つは,採点ミスをした先生が
「ゴメン!お詫びに美味しいたい焼きを10個買ってきたから,これで許して!」
と,Aさんの被害を物(やお金)で穴埋めしてあげる方法が考えられますね。
このように,被害を受けたAさんを救う方法は,大きく2つあって,被害の原因(補習命令)を除去してあげる方法と,被害を物(やお金)で穴埋めしてあげる方法とが考えられます。
これと同じように,行政の活動で被害を受けた人を救済する方法も,大きく2つあります。
1つは,被害の原因となった行政活動を除去してあげる方法で,
もう1つは,被害をお金で穴埋めしてあげる方法です。
このうち,被害の原因となった行政活動を除去する方法を研究しているのが,行政争訟法の分野で,
被害をお金で穴埋めしてあげる方法を研究しているのが,国家補償法の分野です。
つまり,行政救済法は,大きく,行政争訟法と国家補償法に分けることができるのです。
次の図表1でイメージを確認してみてください。
【図表1:行政争訟法と国家補償法】
(2)行政事件訴訟と行政不服申し立て
では次に,行政争訟法をもう少し詳しく見ていきます。
被害の原因となった行政活動を取り消してもらう方法には,大きく2つありまして,
1つは,当の行政に「取り消して!」と言う方法と,
もう1つは第三者的な裁判所に言う方法とがあります。
このうち,行政にその活動の取消しを求めることを,行政不服申し立てといい,
裁判所に行政活動の取消しを求めることを,行政事件訴訟(司法不服申し立て)というのです。
次の図表2でイメージを確認してください。
【図表2:行政不服申立てと行政事件訴訟】
(3)国家賠償法と損失補償法
では次に,国家補償法をもう少し詳しく見ていきましょう。
被害の発生原因を分析すると,2つのパターンがありまして,
1つは,行政の違法な活動により,被害が発生した場合と,
もう1つは,行政の活動は適法だけど,一般の人に被害が発生した場合とがあります。
行政の違法な活動で被害が発生する,というのは,何となく分かりますが,
行政は何も悪いことしていないのに,被害が発生することってあるのでしょうか?
これは,例えば土地の収用があります。
土地の収用とは,例えば,行政が県内の道路を整備するとき,
「ここに県道を作ります。なのでここの土地を県が取り上げます。住んでいる人は立ち退いてください」
というように,行政が土地を取り上げる活動を土地の収用と言います。
この行政活動,法律にのっとって,正しく行われていますが,土地を取り上げられた人には「土地がなくなる」という被害が発生しますよね。
このように,行政が適法に活動していても,一般の人に被害が発生することがあるのです。
そして,行政の違法な活動により,被害が発生した場合の穴埋めを研究している分野を,国家賠償法といい,
行政の適法な活動により,被害が発生した場合の穴埋めを研究している分野を,損失補償法といいます。
ちなみに,違法な活動により発生した被害を損害,適法な活動により発生した被害を損失,というように,損害と損失という語を使い分けていますので,理解して憶えておきましょう。
では,次の図表3でイメージを確認してください。
【図表3:国家賠償法と損失補償法】
さて,ここまで行政救済法の全体像を見てきたわけですが,体系が頭の中にできていますか?
次の図表4を見て,これまで学んだことを整理しておきましょう。
【図表4:行政救済法の全体像】
(終わり)
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