憲法「裁判所(2)」
ここは、憲法「裁判所(2)」を講義している教室です。
今回は,最高裁判所についてお話しますね。
1.最高裁判所
(1)裁判官の構成
まずは,最高裁判所の裁判官の構成についてです。
次の憲法の条文を見てください。
第79条前半
最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し(略)これを受けて,裁判所法で,
裁判所法第5条第3項前半
最高裁判所判事の員数は、十四人とし(略)と定められています。
つまり,最高裁判所長官が1人と,最高裁判所判事が14人の,計15人で構成されています。
【図表1:最高裁判所の構成】
(2)任命など
では次に,最高裁判所の裁判官の任命などについてです。
①長官
まず,最高裁判所長官は,内閣の指名に基づいて,天皇が任命します。
第6条第2項
天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
②長官以外の14人の判事
そして,長官以外の14人の最高裁判所判事は,内閣が任命し天皇が認証します。
第79条1項後半
その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。第7条
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。五 (略)法律の定めるその他の官吏の任免(略)を認証すること。
この憲法の定めを受けて,裁判所法でも定められています。
裁判所法第39条
第2項:最高裁判所判事は、内閣でこれを任命する。第3項:最高裁判所判事の任免は、天皇がこれを認証する。
この任命等については,下級裁判所の裁判官について説明したあと,まとめるようにしますね。
(3)国民審査
そして,最高裁判所の裁判官には,任期がありませんが,国民審査に付されます。
国民審査とは,衆議院議員総選挙の際にあわせて行われるもので,次の図表2のように,投票用紙に裁判官の名前が書かれていて,辞めさせた方が良いと思う裁判官の名前の上に×をつけ投票する方法で行われています。
【図表2:国民審査の例】
この国民審査は,任命の後の直近の衆議院議員総選挙の際に行われ,
その後は,10年経った後の直近の衆議院議員総選挙の際にまた行われていきます。
次の図表3を見て理解をしておきましょう。
【図表3:国民審査が行われる時期】
以後,10年経ったごとに,直近の衆議院議員総選挙の際に行われます。
次の条文を確認しておいてください。
第79条第2項
最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。そして,辞めさせた方が良いとする票が多数あるときは,その裁判官は辞めさせられます。
第79条第3項
前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。詳しくは,最高裁判所裁判官国民審査法(以下,国民審査法)という法律で定められていて,例えば,
国民審査法第32条本文
罷免を可とする投票の数が罷免を可としない投票の数より多い裁判官は、罷免を可とされたものとする。
というように定められています。
つまり,○をつけた数が,○をつけなかった数より多い裁判官は,罷免を可とされたものとして,辞めさせられるということです。
あと,テスト対策としては,次の2点に注意しておきましょう。
①衆議院議員総選挙の際に行われるということ。
参議院議員の通常選挙ではありませんよ。
そして,衆議院議員の総選挙なので,解散総選挙でも行われますし,任期満了後の総選挙でも行われます。
②最高裁判所の裁判官について行われるということ。
ですので,長官もその他の14人の判事も,国民審査に付されますよ。
この2点を注意して理解しておきましょう。
(4)定年
そして,定年年齢についてです。次の条文を見てください。
第79条第5項
最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。この憲法の条文を受けて,裁判所法で,定年年齢が定められています。
裁判所法第50条
最高裁判所の裁判官は、年齢七十年、高等裁判所、地方裁判所又は家庭裁判所の裁判官は、年齢六十五年、簡易裁判所の裁判官は、年齢七十年に達した時に退官する。
最高裁判所の裁判官は,長官も他の判事も70歳が定年年齢と定められていますね。
あと,高等裁判所,地方裁判所,家庭裁判所の裁判官は65歳,簡易裁判所の裁判官は70歳ですね。
(5)報酬
最後に報酬についての定めです。次の条文を見てください。
第79条第6項
最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。ここで,注意しておきたいことは,裁判官の報酬については,憲法上「在任中、これを減額することができない。」という保障がされているのに対し,国会議員の歳費受領権には,「在任中、これを減額することができない。」という保障はありませんのでご注意ください。
2.最高裁判所の権限
それでは次に,最高裁判所の権限についてです。
最高裁判所は,
①上告や訴訟法で定める抗告についての一般裁判権
②国家行為の合憲性審査権
③最高裁判所規則の制定権
④下級裁判所の裁判官指名権
⑤下級裁判所や裁判所職員を監督するという司法行政監督権
などの権能があります。
これらの中から,裁判を行うときのことと,規則制定権について,もう少し説明を加えますね。
(1)審理・裁判
最高裁判所は,裁判官15人全員の合議体で構成する大法廷(定足数9人)と,5人の裁判官による合議体の小法廷(定足数3人)のどちらかで審理・裁判を行います。
【図表4:最高裁判所の審理・裁判】
大法廷と小法廷のどちらで裁判を行うかは最高裁判所の決定で決まりますが,判例を変更する場合など,特定の場合は大法廷で裁判する必要があるとされています。
次の裁判所法の条文を見てください。
裁判所法第9条
第1項:最高裁判所は、大法廷又は小法廷で審理及び裁判をする。第2項:大法廷は、全員の裁判官の、小法廷は、最高裁判所の定める員数の裁判官の合議体とする。但し、小法廷の裁判官の員数は、三人以上でなければならない。
裁判所法第10条
事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。)
二 前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。
三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。
(2)最高裁判所の規則制定権
最高裁判所は,規則を制定する権能を持っています。
次の憲法の条文を見てください。
第77条第1項
最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。そして,検察官は,この規則に従わなければなりません。
第77条第2項
検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。そして,
第77条第3項
最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。このように,下級裁判所に関する規則を定める権限を,下級裁判所にまかせることができます。
(終わり)
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