憲法「法の下の平等」
ここは、憲法「法の下の平等」を講義している教室です。
今回は,人権分野の最後に,法の下の平等について説明しますね。
それでは次の条文を見てください。
第14条第1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
まず,「平等」の意味ですが,広辞苑で調べると,「かたよりや差別がなく,すべてのものが一様で等しいこと」とあります。
まあ,「平等」と聞いたときに頭に浮かぶイメージ通りだと思います。
もちろん,憲法が保障している平等の意味もそうなのですが,どんな人に対しても絶対的に平等に扱うことを要求しているのかというと,そうではありません。
例えば,年収300万円のBさんと年収1000万円のCさんに,国が
「BさんもCさんも,平等に,所得税200万円支払え!」
なんて言うのはおかしいというのが分かりますよね。
このように,日本国憲法では,平等とはいっても,絶対的な平等を求めているのではなくて,人によって違いがあることに応じた平等(相対的な平等)を求めていると考えられています。
ですので,先ほどの例でしたら,国が
「Bさんは60万円,Cさんは200万円の所得税を支払え!」
と,BさんとCさんとで,異なる扱いをしても憲法違反になりません。
これを,合理的な区別と言ったりしています。
これが,「法の下の平等」での「平等」の意味です。
次に,「法の下」の平等とはどういうことか,ということですが,これは,法を平等に適用するという法適用の平等だけでなく,法の内容そのものも平等すなわち法内容の平等をも意味すると考えられています。
この,法適用の平等と,法内容の平等について,もう少し説明をしておきましょう。
(1)法適用の平等
例えば,「他人の物を盗んだら罰金100万円!」という法律Pがあったとします。
これを,年収300万円のBさんには
「Bさん,あなたは他人の物を盗みましたね!だから罰金100万円支払え!」
と,この法律Pをそのまま適用するのに,
年収1000万円のCさんが盗みを働いたときには
「Cさんは,普段から税金をたくさん払っているので,罰金は支払わなくていいです」
と,法律Pを適用しない,なんてことがあってはいけませんよね。
CさんにもBさんと同じく法律Pを適用しましょう,とする考え方を,法適用の平等といいます。
(2)法内容の平等
さきほどの例で,BさんとCさんの扱い方を差別したい場合には,初めから法律の内容を変えておく,という方法が考えられてしまいますよね。
例えば,法律を
「他人の物を盗んだら罰金100万円!ただし,税金をいっぱい支払っている人は罰金は支払わなくてもよい」
としておくんです。
こんな手を使うのもいけませんよね。
このように,法律の内容でも差別をしてはいけませんよ,とする考え方を,法内容の平等と言います。
この法内容の平等は,「差別するような法律を作るな」という意味なので,立法を行う人に働きかけていますよね。
だから,難しい言い方をすると,立法者拘束説とも言います。
反対に,法適用の平等は,法適用のみ平等であれば良く,法内容の平等までは求めないとする考え方なので,立法者非拘束説と言います。
この法適用の平等と法内容の平等を図表でまとめてみましたので,イメージを確認してみてください。
【図表1:法の下の平等】
では,14条の続きを見てみましょう。
第14条第2項
華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
明治憲法の時代には,華族制度がありましたが,日本国憲法の時代では華族制度は廃止しますよ,と宣言しているものです。
ちなみに,皇族制度は,この条文の例外です。
第14条第3項
栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
栄典の授与に関しても,平等原則が貫かれますよ,ということが述べられています。
簡単に説明しておくと,栄典の授与には,特権を伴いませんし,栄典の授与の効力(この効力には特権はありません)は,授与を受けた人だけに認められますよ,ということが書かれています。
ちなみに,こんなややこしい正誤問題文が作れてしまいますのでご注意くださいね。
問題:栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その特権を有する。
どうですか?
この問題文は誤りを含む文なのですが,どこが誤りか分かりましたか?
これは,最後の「特権を有する」が誤りです。
栄典の授与には,特権を伴いません。
現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り有するのは,特権ではなくて効力です。
ややこしいですが,気をつけてくださいね。
あと,日本国憲法では,15条3項,24条,26条1項,44条に平等原則が定められていますので,ご確認ください。
第15条第3項
公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。第24条
第1項:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。第2項:配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第26条第1項
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。44条
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
では,この14条の法の下の平等について争われた判例を見ておきましょう。
引用が少し長いですが,頑張って読み進めてくださいね。
事件の背景ですが,昔の刑法200条(平成7年に削除されました)では,普通の殺人罪よりも,尊属(父母などのこと)を殺した場合の罪の方が,はるかに刑罰が重く定められていました。
これが,法の下の平等に反するのではないかが争われた事件です。
これについて,裁判所は「尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義というべく、このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。そこで、被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもつてただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがつてまた、憲法一四条一項に違反するということもできない。しかしながら、加重の程度が極端であつて、前示のごとき立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法一四条一項に違反して無効であるとしなければならない」と判示しました(「尊属殺重罰規定違憲判決」最大判昭和48.4.4)。
要約すると,尊属殺人罪を,普通の殺人罪よりも刑罰を重くしても,それがすぐに憲法違反になるわけではないが,正当な根拠もなく極端に刑を重くするのは14条1項に違反し許されない,との判断がされているということです。
重要判例ですので,しっかりと理解をしておきましょう。
(終わり)
→次の憲法「国会(1)」に進む
←前の憲法「幸福追求権」に戻る
☆入門講義の「憲法」の目次に戻る
☆法律入門講義の目次に戻る