行政法「行政手続法(2)『処分』」
ここは、行政法「行政手続法(2)『処分』」を講義している教室です。
1.申請に対する処分
前回の最後の方でもふれたように,行政手続法が対象としている行政活動の1つに,「処分」がありました。
今回は,その処分について見ていきましょう。
さて,その処分ですが,行政手続法では,さらに「申請に対する処分」と「不利益処分」に分けて規定しています。
まずは,その内の1つである,申請に対する処分についてお話しますね。
次の図表1を見てください。
【図表1:申請に対する処分】
例えば,あなたが喫茶店を開こうと思ったとします。
そのためには,保健所長の営業許可が必要なんですね。
そこで,あなたは,保健所長に「喫茶店の営業を許可してください」と申請をするのです。
その申請に対する保健所長の判断(「よし,許可しよう」や「これでは許可できない」)を申請に対する処分といいます。
それでは,申請に対する処分について,行政手続法ではどんなことを定めているのかみていきましょう。
(1)審査基準
例えば,あなたが,一生懸命に働いてお金を貯めて,やっと夢であった喫茶店を開けるぞ!と思っているのに,保健所長が
「ん~今日はなんか気分が悪いな。だから不許可!」
なんてされたらどうでしょう?
腹が立ちますよね。機嫌が良い悪いで決められちゃあ,たまったもんじゃありませんよね。
こんなことが起こらないように,行政手続法では,審査基準を定め,原則公にしなければならないと定めています。
次の第5条を見てください。
第5条
第1項行政庁は、審査基準を定めるものとする。
第3項
行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。
(2)標準処理期間
では,こんな場合はどうでしょう。
あなたが,「喫茶店の営業の許可をください」と申請をしたけど,保健所長が
「ん~審査基準では許可しなくちゃいけないけど,気分的に許可したくないんだよね~そうだ!このまま申請を握りつぶしてしまえ~」
こうなると,あなたが保健所長に
「まだ許可はされませんか?」
と質問しても
「いや~前例がなくてなかなか難しい案件で時間がかかっとりますわ~」
と,のらりくらりとかわされてしまいます。
こんなのもダメですよね。ちゃんと仕事してよって思います。
そこで,行政手続法では,標準処理期間というものを定めるよう努めなければならないとしています。
この標準処理期間とは,申請をしてから処分されるまでのおよその期間のことです。
では,次の第6条を見てください。
第6条
行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間 (~略~) を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。これで,許可すべきだけど許可したくないのでのらりくらりかわす,ということが無くなりますね。
ただ,注意しておきたいところは,標準処理期間を定めるよう「努めなければならない」と書かれていますよね。これは,標準処理期間を定めなくても,直ちに行政手続法に違反するわけではなくて,標準処理期間を定めるように努力はしてくださいね,というくらいの意味だということです。
申請にもいろいろあるので,一律に「標準処理期間を定めよ」とはできなかったようです。
(3)理由の提示
あと,申請された許認可を拒否する場合は,理由を示さなければならないことになっています。
あなたが喫茶店の営業の許可申請をしたのに,不許可になった場合,不許可になった理由があると,今後の対策が立てやすいですよね。
また,もし理由を言ってくれないと,なんか行政が
「許可はしてあげませ~ん♪理由はヒ・ミ・ツ」
と思っているような気がする私は,ひねくれているのでしょうか(笑)
さて,理由の提示については,第8条第1項に書かれています。
第8条第1項
行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。(以下略)
以上が,申請に対する処分についての規定ですが,条文を読み込むと,もう少しいろいろな定めが置かれています。
今日の内容がしっかりと定着したら,条文に触れて,細かい定めを見ておきましょう。
2.不利益処分
では次に,「処分」のうちの「不利益処分」について見ていきましょう。
さっきの例の続きだと思ってください。
あなたは,保健所長の営業許可を得て,喫茶店を開こうとしていたのでした。
で,無事許可も下りて,喫茶店を開きました。
最初の数年はいろいろ大変だったけど,喫茶店を開いて5年が経ち,固定客も増え,軌道に乗っている矢先,保健所長から,いきなり
「営業の許可を取り消す!」
という通知がきたとします。
さあ,えらいこっちゃですね!どうしましょうか?
まず,この許可の取り消しのように,一般の人に不利益にはたらく行政庁の処分のことを,不利益処分といいます。
次の図表2でイメージを確認してみてください。
【図表2:不利益処分】
(1)処分基準
この不利益処分が,どういう基準で行われているか,知りたいですよね。
これまた,保健所長が
「ん~,あそこの喫茶店,えらい儲かってるみたいで不愉快だな。よし,営業許可を取り消そう!」
なんて,所長の感情を基準にされていたら,たまったもんじゃありませんね。
そこで,どういう場合に不利益処分がされるのか,その基準を定めるよう努力しなさいと,行政手続法で定められています。
また,その内容を公にするよう努めなければならないとも規定されています。
次の第12条第1項を見てください。
第12条第1項
行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
ちなみに,少し細かい話になりますが,前回の申請に対する処分で見た「審査基準」とそれを「公にする」規定については,
「審査基準を定めるものとする」
「公にしておかなければならない」
というように「努める」という語句が入っていませんね。
それに対し,不利益処分の場合は,処分基準を定めることも,公にすることも,「努めなければならない」という語句があります。
この「努めなければならない」,これを努力義務というのですが,これは,処分基準を定めなくても,直ちに行政手続法に違反する訳ではないけれど,定めるよう努力はしてくださいね,というような意味でしたね。
これは,中には,処分基準を定めて公にすると,そのウラをかいて,処分基準スレスレの脱法行為をするような悪徳業者が出てくる可能性もあるため,そういういろんな事情を踏まえて,努力義務としているんです。
(2)意見陳述のための手続き
さて,例えば,学校でいきなり先生に「ばかもん!」と頭ごなしに怒られたらどうでしょう?
「先生ちょっとまって!それはな・・・」
というように,自分の言い分を聞いて欲しいですよね。
「言い訳なんかするな!みっともない!」
なんて言われようなら,私ならヘソを曲げます!
気合の入った人なら,グレてやるかも知れません。
このように,他人に叱るなど不利益なことをする場合,ちゃんと言い分を聞くことがスジっていうもんです。
行政の処分も同じで,不利益処分をする場合,その相手方の意見を述べる機会を設けるように,行政手続法で定めているのです。
次の第13条第1項を見てください。
第13条第1項
行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、(~中略~)当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
(~略~)
二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与
さあ,ここで,二つのキーワードが出てきましたね。
聴聞と弁明の機会の付与です。
聴聞とは,許認可の取り消しなど,重い不利益処分をする場合に行う手続きで,慎重な意見陳述手続きを行います。
また,弁明の機会の付与は,聴聞を行うほどではない比較的軽い処分について行う手続きで,原則書面を提出して行います。
このように,行政庁が不利益処分をする場合は,処分をする前に,不利益処分をされる人の意見を聞く機会を設けるよう,行政手続法で定められているのです。
なお,行政書士試験を受験される方は,これらの手続きの細かいところが出題されたりする可能性があるので,概略をつかんだら,しっかりと条文にあたって手続きを理解しておいてくださいね。
(終わり)
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