行政法「行政行為の瑕疵」
ここは、行政法「行政行為の瑕疵」を講義している教室です。
1.行政行為の瑕疵
まず、瑕疵という語についてですが、漢字を見ていると難しそうに思えるかも知れませんが、瑕も疵も、どちらもキズという意味で、瑕疵という語もキズを意味します。
ですので、行政行為の瑕疵とは、キズのある行政行為、つまり法律違反などの問題がある行政行為のことをいいます。
その瑕疵ある行政行為を、どう扱うかが今日のテーマですが、まず、瑕疵には違法性だけでなく不当性も含めて考えるんだということを押さえておきましょう。
不当な行政行為とは、「法律違反じゃないけれど、そんな行政行為はおかしい。けしからん!」と思える行政行為のことで、以前学んだ裁量という語を使って説明すると「法律違反ではないけれど、裁量の使い方に問題がある行政行為」のことをいいます。
そして、この瑕疵にも、色々な状況があります。
例えば私たちでも、「怪我して体がキズついた」といっても、色々な状況がありますよね。
ちょっとすりむいた程度のキズもあれば、何針か縫わなければならないキズもあるし、即死してしまうキズだってあります。
行政行為の瑕疵にも、色々なキズの程度があって、ごく軽い瑕疵もあれば、即死に値する瑕疵もあるんです。
それらの状況に合わせて、瑕疵ある行政行為の取り扱いを考えていくのです。
次の図表1を見てください。
【図表1:行政行為の瑕疵】
行政行為に瑕疵があるけれど、ごく軽いものは、そのキズは治ったと考えて、そのまま有効にしておきます。
例えば、戸籍では「渡邉」となっているけど「渡邊さん、あなたの建物を壊しなさい!」と漢字を間違って行政行為をしてしまった。しかし、間違いはそれだけで、他に何の問題もなく処理が済んだ場合などが考えられます。
もちろん、法律による行政の原理からすれば、違法な行政行為を有効にしてしまうのは問題がありますので、関係者の利害等を考えた上で有効と扱うべきですが。
このように、行政行為の瑕疵が軽微であるとき、その瑕疵は治癒したと考えて、有効と扱うことを、瑕疵の治癒といいます。
反対に、行政行為の瑕疵がヒドすぎて、即死レベルと考えられる場合は、その行政行為を存在させる意味がありませんから、無効として扱います。
つまり、そんな行政行為は初めから無かったものとして良いということです。
例えば、マイホームを持っていないBさんに「あなたの家は危険だ!壊しなさい!」なんていう行政行為なんかがそうですね。
では、どのような場合に、瑕疵ある行政行為が無効とされるかというと、従来から判例で「重大かつ明白な瑕疵」がある場合は無効であるとしています。
行政行為のキズが、重大なだけではダメで、明白、つまりだれの目から見ても明らかでないといけない、ということです。
でも、この重大かつ明白という基準、ちょっと考えると不思議な基準なんです。
誰の目から見ても明らかなら、裁判沙汰にはならないはずですよね。明らかでないから、裁判で「有効だ!」「いや無効だ!」と争われるのですから。
そこで、この重大明白説に対し、具体的価値衡量説と言われる考え方があります。これは、その行政行為の瑕疵が無効かどうかの判断は、その具体的に起こっている争いについて、色んな状況を踏まえててんびんにかけ、無効にした方が良いかどうかを考える、という立場です。
とにかく、そんな考え方もあるんだなあということが理解できればオッケーです。
そして、治癒はしていないけど、重大かつ明白とまではいえない瑕疵がある行政行為の場合は、以前、行政行為の効力で学んだ公定力があるため、取り消し訴訟などで取り消されない限り、一応有効と扱われます。
(終わり)
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