クマべえの生涯学習大学校

行政法「行政指導,行政契約」

ここは、行政法「行政指導,行政契約」を講義している教室です。
今回は、行政指導や行政契約といった,非権力的な行政活動についてお話しをしていきます。


1.行政指導

今まで学んできたように,行政の活動といえば,権力的なものが特徴的なので,そちらに注目が集まりますが,決して権力的な活動ばかりしているわけではありません。
日本の行政は,むしろ権力的な活動を嫌って,非権力的な手法で行うことがよくあります。
まずは,その非権力的な活動の典型的なものである,行政指導について説明しますね。

例えば,一般の人Bさんの建物が違法建築物だとします。
すると,行政は,「その建物は違法だ!壊しなさい!」と命令することができますね。これを行政行為といいました。
そして,Bさんがその命令に従わなければ,強制執行してでもその建物を壊すことができます。

しかし,実際には,そんな権力のゴリ押しをするのではなくて,
「その建物は違法なんですわ。だから壊してもらえませんかねぇ」
と,ソフトに働きかけることの方が多いんです。

もちろん,これは行政行為じゃないので,壊す義務は発生しないんですが,

Bさんとしては,どうせそのうち命令されそうなんだから,今のうちに従っておいた方が良いな,と思うわけです。

また,行政側としても,なにも権力を使わなくても要求を通すことができそうなら,法律による行政の原理でガチガチに固められた権力を使う必要がなくて,メリットが大きいです。

このような,非権力的な行政の活動行政指導といいます。

それでは,どのような行政指導があるかですが,これが実に様々なものがありまして,なかなか一言では表せないところです。
一般の人に利益になるような行政指導(助成的行政指導)もあれば,不利益になるような行政指導(規制的行政指導)もあります。

このように,捉えどころがないと思える行政指導ですが,前回まで学習した行政手続法で,初めて一般的な定めが置かれました。

まず,行政指導の定義について,次のように定められています。

第2条第6号

行政機関がその任務又は所掌[しょしょう]事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為[さくい]又は不作為[ふさくい]を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当[がいとう]しないものをいう。

定義するのに,苦労したんだなということがうかがえる言い回しですね。

「ねえねえ,クマべえ先生」

「はいはい,何でしょう?」

「行政指導って,非権力的なんですよね?」

「その通りですよ。」

「じゃあ,行政指導に従わなくても良いんですよね?」

「はい,よく理解しておられますね。」

「それなら,行政指導を,法定する必要なんてなかったんじゃないですか?」

おお,良い質問ですね。
確かにその通りなんですが,実は一般の人は「その行政指導に従いません!」とは言いにくいんです。

例えば,おかあちゃんに
「あんた,ちょっと買い物に行って,食パン買ってきて~」
と言われたとします。

これ,特に強制的なものでなかったとしても,暗に
(行ってくれへんかったら,お小遣い減らそうかな。へっへっへ)
という思惑をチラつかせてたらどうでしょう。

「う,うん。。。行ってあげるわ」
と言ってしまいますよね。

これと同じことが,行政指導でも起こりえるんです。

「あなたの建物,壊してくれませんかねぇ」

と,ソフトな顔のウラに,
(壊さなかったら,喫茶店の営業の許可をしてあげないよ~)
というのをチラつかせられたら,「従いません!」とは言いにくいですよね。

ですので,行政指導も,ある程度は法律で定めておいた方が良いのです。

例えば,次の行政手続法第32条を見てください。

第32条

第1項
行政指導にあっては、行政指導に[たずさ]わる者は、いやしくも当該[とうがい]行政機関の任務又は所掌[しょしょう]事務の範囲を逸脱[いつだつ]してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。

第2項
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない

第1項では,相手方つまり一般の人の,任意の協力つまり協力するしないは自由であることを確認していますね。
第2項では,一般の人が行政指導に従わなかったからといって,理不尽なことをしてはいけませんよ,と定めています。

このように法律で定めることにより,行政指導が適切に行われるようにしているのです。
あと,第33条から第36条も,行政指導について定めていますので,六法などでご確認ください。


2.行政契約

非権力的な行政活動のもう1つは,行政契約です。

行政も,例えば公務員が仕事をするためにデスクやパソコンを業者から買いますが,そのときは権力を使いません。
「そのパソコンを行政に100円で売れ!」
なんて,おかしいですよね。
私たちと同じように,売買契約を結んで買います。

では,世間一般の人が行う契約と,行政が行う契約とでは,違いはあるのでしょうか?

これは,基本的には世間一般の人が行う契約と同じと言えます。
ですので,原則民法や商法が適用されるのです。

しかし,まったく同じというわけにもいきません
例えば,私たちならば,友達に「100万円あげる!」という契約を結ぶのは自由ですよね。
これを契約自由の原則とか、もう少し意味を広げて私的自治[してきじち]の原則とかいいます。民法で学ぶ基本原則ですね。

しかし、行政が,誰かに「100万円あげる!」なんていう契約を勝手に結ぶことはできません。
そんなことをしたら
「私たちの税金を無駄遣いするな!」
と反対運動が起こるかも知れませんね。
行政の場合、契約自由の原則や私的自治の原則が、常に適用されるわけではないんです。

このように,公の組織体である行政というところから,おのずと違いはあるんです。

あと、行政が契約を結ぶとき、法律による行政の原理から、法律の優位の原則が適用されるのは当然として、法律の根拠は必要かという問題があります。

これについては、ガチガチの全部留保説の立場に立てば、行政が契約を結ぶ場合には法律の根拠が必要になりますが、
行政契約は非権力的な活動ですから、侵害留保説や権力留保説の立場に立てば、必要がないということになります。
ただ、現実では、行政が好き勝手に契約を結ぶとまずい場合などでは、法律の根拠に基づいて行う行政契約もみられます。


(終わり)

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