行政法「行政行為の効力」
ここは、行政法「行政行為の効力」を講義している教室です。
1.行政行為の効力
今回は、行政行為の効力について学びましょう。
行政行為には、私たち世間一般の人々の間では見られない、特殊な効力が認められています。
その主なものとして、公定力、不可争力、自力執行力、不可変更力があります。
それでは今から、それらを1つづつ見ていきます。
(1)公定力
まず1つ目は、公定力です。
公定力とは、行政行為がたとえ違法であったとしても、取り消されるまでは原則有効とされる効力のことをいいます。
例えば、行政庁のAさんが、危険な建物を持つBさんに対して「あなたの建物は危険です。すぐに壊してください!」という行政行為をしたとします。
でも実は、この行政庁Aが行った命令は間違いで、本当は「すぐに補強をしてください!」と命令すべきだった、とすると、Bさんはどうすれば良いのでしょうか?
「Bさんは建物を壊す必要なんてないよ。」
「行政庁Aの命令は間違っているんだから、無視すればいいよ。」
と、常識的に考えれば、このように思いますよね。
しかし、行政行為は違うんです。
行政庁Aの「建物を壊せ!」という命令が、たとえ間違いであっても、それは一応有効として扱われるんです。
言い換えると、Bさんは、「建物を壊せ!」という間違った命令に、一応従わなくてはならないんです。
行政行為って、一般世間では考えられないような、不思議な力を持っているでしょう。
このように、行政行為がたとえ違法であったとしても、一応有効として扱われる効力のことを、公定力と呼ぶのです。
次の図表1で、公定力のイメージを確認してみてください。
【図表1:公定力のイメージ】
さて、これが行政行為の公定力ですが、
「でも、その行政行為は違法なんだから、何とかならないんですか?」
「そうだよ。これじゃあBさんがかわいそうだよ!」
そんな風に思いません?確かにこれじゃあBさんがかわいそうです。何とかしてあげた方がいいですよね。
そこで、「違法な行政行為に従いたくない、不満だ!」という場合は、取り消し手続を踏まえればよいことになっています。
例えば、Bさんは裁判所に行って、「行政庁Aがした行政行為は違法だ!取り消して欲しい」と訴えるのです。
そして、裁判所から「Bさんの言い分はもっともです。行政庁Aがした行政行為は取り消しましょう。」という判決をもらえれば、Bは、その行政行為に従わなくてもよくなります。
このへんの話は、行政救済法で詳しく学びますので、ここではこれ位にしておきましょう。
その他に、Bが建物を壊さなくてもよい場合として、行政庁Aが自ら
「Bさんゴメン。あの行政行為は間違っていたので取り消します。あなたの建物は壊さなくてもいいです。」
と間違いを認めて、行政行為を取り消してくれる場合があります。これを職権取消しと言うのですが,このように行政庁Aが自ら行政行為を取り消した場合も,Bさんはその行政行為に従わなくてもよくなります。
ところで、中には例外的に公定力が認められない行政行為もあります。
それは、行政行為の違法性が、重大かつ明白である場合には、公定力が認められないんです。
言い換えると、その行政行為に従う必要はありません。無視してもいいんです。取り消し手続を踏まえる必要もありません。
例えば、行政庁のAさんが、Bさんに対して「あなたの建物は危険です。すぐに壊してください!」という行政行為をしたのですが、実は危険な建物を持っているのはCであり、そもそもBは建物を持っていなかった、とします。
この行政庁Aの間違い方は、ヒド過ぎますよね。建物を持っていない人に対して「建物を壊せ!」なんていう命令なんかして。
このような、あまりにもヒドい間違いを、重大かつ明白な瑕疵と呼んでいます。
そして、この例の場合ならば、Bさんは、取り消し手続を踏まえることなく、この命令を無視すればよいのです。
これを、重大かつ明白な瑕疵を持つ行政行為は、無効である、という言い方をします。
では、次の図表2で、重大かつ明白な瑕疵について、イメージをつくっておきましょう。
【図表2:重大かつ明白な瑕疵のイメージ】
(2)不可争力
行政行為の効力の2つ目は、不可争力です。
さっき、公定力のところで、違法だなと思われる行政行為に従いたくない場合は、裁判所などに「取り消して欲しい!」と訴えればよい、というお話しをしました。
しかし、この訴えを起こすのには、期間が定められているのです。
例えば、Bさんは、行政庁Aから「建物を壊せ!」と命令されたけれど、従いたくない、という場合、Bさんがその命令を知ってから6ヶ月以内に訴えないといけないんです。
言い換えると、Bさんは、その命令を知ってから6ヶ月を過ぎてしまうと、裁判所に「取り消して欲しい!」と訴えることができなくなるのです。
このように行政行為には、一定の期間が経過すると、行政行為を受けた人の側から、その行政行為の違法性を裁判などで争うことができなくなる効力が認められています。
この効力のことを、不可争力というのです。
では、次の図表3で、不可争力についてのイメージを確認してみてください。
【図表3:不可争力のイメージ】
(3)自力執行力
行政行為の効力の3つ目は、自力執行力です。
例えば、あなたは今、友達に100万円を貸しているとします。でもその友達が、いつまでたってもお金を返してくれません。
さあ、あなたならどうします?
「そいつの家に乗り込んで、金目のものを無理やり奪ってやる!」
いえいえ、そんなことをしたら、あなたが逆に訴えられてしまいますよ。下手をすると、犯罪者になってしまうこともあります。
このような場合、あなたは、裁判所という国の機関を利用して、裁判所から「借りたお金を返しなさい」と命令してもらうのです。
それでも友達がお金を返さないときは、裁判所に、実力行使をすることをお願い(請求)するんです。
すると、裁判所の人がその友達の家に行って、金目の物を奪って(言葉が悪くてすみません)、換金してくれます。
そしてそのお金の中から、100万円をあなたに渡してくれます。これを強制執行手続といいます。
この例のように、世間一般では、「自らそいつの家に乗り込んで、金目のものを無理やり奪ってやる!」という実力行使をすることが認められていません。実力行使をする場合は、裁判所という国家機関を通さなくてはならないのです。
これを、自力救済の禁止と呼んでいます。
【図表4:自力救済の禁止のイメージ】
これに対して行政行為の場合、裁判所を通さずに、直接実力行使をすることが認められているものがあります(認められていないものもありますが。)。
例えば、税金100万円を払わない人がいたとします。
この場合、行政は、裁判所を通さずに、いきなりその人に対して実力行使(家に行って金目のものを差押えたりすること)をすることができるのです。
このように、行政が、裁判所を通さずに、自ら実力行使をして、行政行為の内容を実現する効力のことを自力執行力というのです。
次の図表5で、イメージを確認してみましょう。
【図表5:自力執行力のイメージ】
(2)不可変更力
行政行為の効力の4つ目は、不可変更力です。
例えば、裁判所が「Aさんは人を殺したので死刑だ!」という判決を下したとします。
しかしその1週間後、裁判所が「Aさんゴメン。あの判決は間違っていました。やっぱり無罪です。」と言い出したらどうでしょうか。
一見、裁判所が、自ら行った判決の間違いを認めることは良いことだ、と思えますが、さらにその1週間後「あれ?やっぱり有罪っぽいぞ?判決はまたまた変更します。Aさんは死刑だ!」なんてことを言い出したらどうでしょうか。
もう、裁判制度はメチャクチャですよね。裁判所に対する信頼がこわれてしまいます。
そこで、裁判所で下された判決を、その後に、その裁判を行った裁判所が自ら変更をすることは、原則禁止されているのです。
これを不可変更力といいます。
では、次の図表6で、イメージを確認してみましょう。
【図表6:不可変更力のイメージ】
「ねえねえ、クマべえ先生。」
「はいはい、何でしょう?」
「今、私たちは行政法の勉強をしているんですよね。」
「そうですよ。」
「でも不可変更力の説明の中には、行政の話が出てきてませんよ?」
そうですね。それはなぜかといいますと、この不可変更力という効力は、裁判の判決のように、争いを強制的に解決する活動に認められる力なんです。
ですので、裁判を例にして説明した方が分かりやすいと思いまして、行政の話を出さなかったんです。
「でも、不可変更力は、行政行為の効力なんでしょ?」
そうなんです。実は、行政行為の中には、争いを強制的に解決するような働きをするものもあるんです。そのような種類の行政行為に、不可変更力が認められているのです。
詳しいことは、行政救済法の分野の、行政不服審査法で学びますので、ここでは、大まかにイメージをつくっておくだけにしておきましょう。
まずは、次の図表7に目を通してみてください。
【図表7:行政行為の不可変更力のイメージ】
では、この図表7を使って説明しますね。
まず、行政庁Aが、一般人Bに、「建物を壊せ!」と命令しています。
しかし、一般人Bは、「いやだ!」と拒否しています。
このAとBの争いを解決するために、行政庁Xが、第三者的な立場で、いろいろ審査をして、最終的に「建物を壊す必要はない!」という結論を下しています。
この、行政庁Xが行った「建物を壊す必要はない!」という結論も、権力を使って、一方的に命令をしてきますので、行政行為のひとつなんです。
そして、行政庁Xが行ったこの行政行為は、裁判所が行う裁判とよく似ていますよね。
ですので、行政庁Xが行ったような、争いを強制的に解決する行政行為に不可変更力が認められるのです。
つまり、行政庁Xは後日、この行政行為を、「やっぱり違法だと思うので、建物を壊しなさい!」と変更をすることはできません。
以上、行政行為の効力について、4つのことを学びました。
ふだん使わない、専門的な用語が次々にでてきて大変ですが、根気よく、じっくりと憶えていきましょう。
(終わり)
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