クマべえの生涯学習大学校

民法の全体像「法律行為」

ここは、民法の全体像「法律行為」を講義している教室です。

今回は,法律行為という用語についてお話しますね。


さて,以前,法律要件と法律効果についてお話しましたが,憶えてらっしゃいますか?

例えば「○○で△△すると◇◇になる」という条文があったとします。
この条文は,○○と△△の2つの事実があれば◇◇という結果が発生する,という形をしていますね。
この,◇◇という結果のこと法律効果といい,その法律効果を発生させる○○という事実と△△という事実のこと法律要件というのでしたね。

今日は,そのうちの法律要件を分類してみる,というお話です。

例えば,以前見ました次の555条を見てください。

555条

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

この555条の,赤文字のところは,要するに「契約をする」ということですよね。
つまりこの条文は「売買は契約をすると売買契約となり,効力(=債権・債務)が発生する」と言ってるんですね。
ということは,効力(=債権・債務)が発生する原因は,売買契約という契約を結ぶことですから,契約は法律要件に当たりますね。

ではもう1つ。
例えば,Aさんが持っているデジカメを,Bさんに3000円で売る契約をしたんだけど,決めた日時にBさんが3000円を支払わないとき,あなたならどうします?


・・・・・・・・・

「しばく」

いやいやいや,実力行使はいけません!ここは穏便に,「代金3000円を支払って!」と催促をしましょう。

ちなみに,このように相手方に催促をすることを,法律用語で「催告[さいこく]」と言います。

それで,催告をしたとします。でも,それでも支払いません。そんなとき,あなたならどうします?


「今度こそしばく」

いやいや,だから実力行使は避けましょうよ。こんなときは,「もうお前には売らない!契約は白紙だ!」と言ってやりましょう。

このように,契約を白紙に戻して,初めから契約をしていなかったことにすることを,法律用語で契約の「解除」と言います。
この契約の解除の流れを,図表にまとめましたので,確認してみてください。

【図表1:契約の解除の流れ】

契約の解除の流れ

そして,今お話しました契約の解除という,いたって普通のことが,民法で定められているんです。
次の541条を見てください。

541条

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

ね?なんとなく意味が分かるでしょう?
今はなんとなく分かればいいですよ。

で,この条文で定められている法律効果は何でしょう?

はい,そうですね。「契約の解除をすることができる」ですね。
契約を白紙に戻すことができるんですね。

そして,「契約を解除」するために必要な事実の1つに「催告」,つまり相手に催促することが定められていますね。
言い換えると,法律要件として,催告が挙げられているということです。


さてここで話を少しまとめます。

今,法律要件の例を2つあげました。
もう一度言いますと,

契約
催告

の2つです。

この2つの法律要件には,決定的に異なる点があります。
それは,「意思表示が内容になっているかどうかです。

契約は,意思表示によって成り立っていることは,以前にもお話しましたね。「申込みの意思表示」と「承諾の意思表示」の合致で契約が成立するのでした。

それに対して催告は,意思表示が内容に入っていません

「代金払って!」と催促するのは,ふつう「代金を払って欲しい」からするのであって,「契約を解除したい」からするのではありませんね。
まあ,中には契約を解除したいから催告する人もいるかもしれませんが,それはイレギュラーだということで。。。

つまり,催告は「契約を解除する」という法律効果を発生させたいために行っているのではないということです。

そして,意思表示とは,単に「心の中で思ったことを,相手に伝える」だけではダメなんでしたね。
「法律効果を発生させる」ことを心の中で思って,相手に伝えること,これが意思表示なのでした。

だから,催告は,法律効果の発生を望んでしているわけではないので,意思表示がその中に含まれていないと言えるんです。

この「契約」と「催告」のように,同じ法律要件でも,意思表示が内容として含まれているものと,そうでないものとがあるんです。

そして,法律要件のうち,契約のように意思表示をその要素としているものを,法律行為と呼んでいるんです。

【図表2:法律行為】

法律行為

ちなみに,法律行為以外は,準法律行為などがあります。さっきの催告は,この準法律行為の1つです。


以上,法律行為についてお話をしてきましたが,この用語は,なかなか理解が難しいとよく言われます。
もちろん,何回も復習してマスターしていただきたいんですが,とりあえずは,法律行為の典型例が契約なので,これから先「法律行為」という語が出てきたら,「契約」と読み替えると,その部分が理解しやすくなりますよ。まあ,ウラ技というほどのものではないですが,ちょっとしたコツみたいなものなので,このことを憶えておくと良いでしょう。


(終わり)

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