クマべえの生涯学習大学校

行政法「損失補償制度」

ここは、行政法「損失補償制度」を講義している教室です。
入門講座「行政法」の最後に,損失補償制度について見ていきましょう。


例えば,行政が道路を作りたいので,土地所有者から土地を強制的に取り上げました。
この場合の行政の活動は法律に基づいて行われています。つまり,適法に行われているということですね。
ですが,一般の人にとっては,「土地を行政に奪われた!」という損失が発生していますね。

このように,適法な行政の活動により,一般の人に損失が発生した場合,その損失を穴埋めしてあげること,これを損失補償といいます。
行政の違法な活動によって発生した損害を賠償する国家賠償制度との違いを理解しておきましょう。

この損失補償の制度について,国家賠償法のような一般法はありません。各個別の法律で定められています。
あと,日本国憲法の29条3項に定められていますので,その条文をを確認しておきましょう。

【第29条第3項】

私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる。

この条文を読み替えると,私有財産を公共のために用いる場合は,正当な補償が支払われなければならない,という意味だということが分かりますね。

それでは,この損失補償の制度で,押さえておきたい2つのポイントを見ておきますね。

まず最初に,どんな場合にでも損失補償が必要か,という点です。
これは,どんな場合にでも損失補償が必要なのではなくて,特別な犠牲である場合に損失補償が必要と考えられています。
これを,特別犠牲説と呼んでいますが,どんな場合に特別な犠牲と認められるかというと,

公共の利用のために財産が侵害されたこと
・一般的に考えて,その財産の侵害が我慢の限度を超えるようなものであること
平等原則に反する個別的な侵害であること

という特徴を持つ財産の侵害を,特別な犠牲と考えられています。

では2つ目に,「正当な補償」とはどれくらいの補償か,という点です。
これについては,相当補償説完全補償説という考え方があります。

まず,相当補償説ですが,昭和28年12月23日の最高裁判決では,農地改革に関する事件で,「その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき,合理的に算出された相当な額をいうのであって,必ずしも常にかかる価格と完全に一致することを要するものではない」と判示しました。
この補償を,相当補償説と言います。 

例えば,国が1000万円相当の土地を取り上げたが,合理的に考えて,300万円の補償をすれば足りるなら,300万円でオッケーだ,という考え方です。
ただ,この判例は,終戦直後の社会改革としての農地改革においての考え方で,現在においても相当補償で足りるとしていいのかどうかは難しいところです。

次に,完全補償説ですが,昭和48年10月18日の最高裁判例では,「土地収用法における損失の補償は,(中略)完全な補償,すなわち収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきである」としています。
つまり,1000万円相当の土地を取り上げる場合,1000万円の補償が必要だ,という考え方で,これを完全補償説といいます。

相当補償説完全補償説の考え方を,判例の主旨に沿って理解しておいてくださいね。

【図表1:正当な補償】

正当な補償

(終わり)

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